東京大学理学部地理学教室と陸水学

当研究室はかつての東京大学理学部地理学教室陸水学講座の後継講座です。その地理学教室を陸水学関係者はどのように評価していたのでしょうか。
下記は10年以上前に書かれた文章ですが、「実践科学への道」「関連科学との協力関係」「世論に媚びない正しい研究の確立」は、まさに当研究室が目指していることです。その実現においてこの筆者が地理学に大いに期待しているように、地理的な考え方は総合科学たる陸水学に不可欠であると、私も思っています。

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山本荘毅(1996)シリーズ:日本陸水学会の歴史を振り返って(3)学会創立当時の思い出.陸水学雑誌,57: 283−284.

(前略)

昭和8年の会員数は名簿によると185名で有名な生物教室の先生方は皆会員になっていたが、このほか当時超一流の地球物理、地質、地理の先生方が入会していた。 私にとっては神様のような先生方、例えば岡田武松、藤原咲平、日高孝治、坪井忠二、地質では小川琢治、加藤武雄、佐々保雄、矢部長克、田中館秀三、脇水鉄五郎、早坂一郎、地理では辻村太郎、今村学郎ら超一流の碩学と時々はお目にかかることができた。 名簿によれば、これら理学部の先生方だけでなく工学部関係の阿部謙夫(水文学・土木)、神原信一郎(土木)らの名前もみえ、学部・学科をこえた広い交流のあったこと、現在の生態学優勢とは異なりIHP、IAHS的な集合協同体であったことがわかる。

陸水学とは何ぞやなどという哲学的な方法論という妖怪にまどわされることもなく、実践科学への道を健実に進んだことが思い出される。 最近は環境問題に関連し、イデオロギーとかマスコミという変化(へんげ)にふり廻されている。 初期の時代におけるような関連科学との協力関係に思いをはせ、世論に媚びない正しい研究の確立に努力するようにしたいと思っている。

(中略)

嘗て吉村先生を頂点に地理学出身の湖沼研究者が輩出した。 直接の指導を受けたのは永森忠正、筆者(文理大)のほか川田三郎、増沢譲太郎、西条八束(以上東大)で、間接的になるが堀江正治(京大)、新井正(立正大)、森和紀(三重大)、堀内清司(日大)、佐藤芳徳(上越教育大)等が研究を行っている。もっとふえて欲しいと思っている。