陸水学研究室の方針

昨日の陸水学ゼミでは、研究室運営方針について、ポリシーの部分と実務部分に分けてお話しました。
ここではポリシーの部分についてお話したことを記録しておきます。こんな話、年度初めに毎回聞かされても仕方ないでしょうから、来年以降に入る学生さんには、みなさんから伝えてください。

ここでは陸水学をメインに研究しますが、陸水学の発展に資することが究極の目的ではありません。陸水学研究をひとつの手段として、人はどう生きればいいかをともに考える場にしていきたいと思っています(ホームページのトップ参照)。なぜなら、環境問題とは、人がどう生きるかを抜きにして解決はないと思うからです。

「人はどう生きればいいか」という根元的な問いを、実は生涯ほとんど考えないで生きている人は非常に多いと思います。マスターだけだと2年という短い期間ですが、そういう根元的な問いを共有できるここでの人間関係が、将来も支える豊かなものであってほしいと思います。

願わくば各自の研究を通じて、生きていく上で生じる様々なことに対する問題解決能力も、あわせて身につけてほしいと思います。

ですので研究テーマは、基本的には何を選んでもいいです。自分がこれは是非とも解明したい、解決したいというテーマに取り組むのが一番だと思っています。私自身、東大海洋研の先生に指導教官になってもらいながら、全然、海洋ではないテーマでした。とは言え、先輩や私の研究を初めは手伝いながらスキルを身につけると、それが将来自分の武器になる可能性があります。特にプロジェクト研究が続く間は、多少遠いフィールドでも補助が出るというメリットがあります(マスター、ドクターの全期間とは限らないので、途中で打ちきりになっても自力で続ける覚悟は必要です)。

陸水学以外のテーマを選んだ場合は、誰が読んでも理学系の論文だと思われるものであることを絶対条件とします。

人は自然を合理的に観察し、火の性質を知り、人にとって価値のある植物を選抜して育て、野生生物を家畜にして生きてきました。平行して、自然にはありえない概念(例えば神とか)を想像し、共有してコミュニティーを築いて生きてきました。
それらを理系的思考、文系的思考と分けるならば、人は本来、理系的思考も文系的思考も併せ持った存在であったと私は思います。

今、人の多くが価値を置いているのは、貨幣にしろ何にしろ、人の都合でしかないもので、それを最優先にして物事を考えると、自然環境との持続的なつきあいは不可能だと思います。だから陸水学研究室では、サイエンスの論文が書けるスキルを身につけることを最低限として要求します。

修士は2年、博士は3年で終了してください。12年も学生やっていた私が言うのもおこがましですが、今の時代、納得行くまで研究を続けても、周囲は、期限内に仕事をこなす能力の欠如とみなしがちです。期限内で自分のプロジェクトを遂行する練習と思って取り組んでください。