ここ2回はシリーズ的に書いてきました。今日がシリーズ最後です。
東京大学理学部地理学教室の大先輩に「湖沼学」の著者である吉村信吉先生がおられます。学部の時にこの「湖沼学」に出会って、私が目指すのはこれだと思いました。その<緒言>に以下の記述があります。
「常々からそう思っていたが、本書編集に当たって最も強く感ぜられたのは、著者の出身学科(地理学)の関係上、補助諸学科の知識、並びに理解力の欠乏であって、本書中に多くあるであろう不徹底の記述は主にこの点に原因している。その為に筆を絶とうとしたことが何度あったか分からない。」
地理学的な考え方で陸水学に取り組むというのは、このように、精神的にはすごく厳しいものがあります
でも、環境科学は文系だけでも理系だけでもなく、人文科学・社会科学・自然科学にまたがる総合的な科学であるべきという点で、反対する人は少ないと思います。例えば、人間が認知する「環境」は、気温という環境因子ひとつとってみても、人間の存在如何に関わらず自然現象として生じている気候変動(たとえば氷期・間氷期)に依存する部分と、ヒートアイランドなどの人為的な温暖化に依存する部分があり、自然科学と人文・社会科学的な基礎的知見の両方が問題解決に不可欠です。
この環境問題のように諸科学が融合して取り組むことが求められる今日、学問は逆にますます細分化し、精密化しています。特に自然科学の細分化は著しく、枝葉を見て木を知らず、木を見て森を知らないという問題が生じています。
さらにまずいことに、再現性を重視するあまり実験科学を優先し、野外調査を軽視する風潮が進んでいます。研究成果を3年などの短期間での業績で評価する傾向も加わり、現場で春夏秋冬を通じて対象地域の環境を総合的に研究する事例は非常に少なくなっているのが現状です。
だからこそ陸水研には、自ら現場に赴き総合的に研究を進められた、吉村信吉先生の陸水学を引き継ぐ人材が出てほしいと思っています。そのためにどうすればいいのか、それぞれの立場で考え、ゼミやコンパなどで議論する、そんな研究室を目指しています。