参考書8「河川事業は海をどう変えたか」


JECONETという生態学関係のMLで、海岸保全と流域土砂管理の問題が議論されています。ダムを作れば海岸がやせ細るというのは、容易に理解されると思います。だって川が運んで来た砂で海岸は維持されているのだから、川の上流にダムができて砂がそこにたまって運ばれなくなったら、やせ細って当然ですよね。

ダムや用水によって海に供給される水量が減ることによっても、内湾の酸素不足を招きます。東京湾とか瀬戸内海といった海は、海底に有機物がたまっていて、酸素の消費が激しいです。そういう状態で海水が停滞してしまうと、あっというまに酸素が食い尽くされます。川から勢いよく水が流れてきてくれると比較的混合してくれるのですが、水量が少ないとよどみがちになるのです。この、川からの水不足も原因で日本一汚くなってしまったと言われているのが愛知県の三河湾です。

ダムの影響で、今、一番気をつけなければならないのは、中国で長江を止めてしまった三峡ダムの影響でしょう。私は「日本海に与えるこのダムの影響は相当なものになりそうだから、ダムが完成するまえに日本海の現況を調査しておくべきだ」と関係者にメールしたのですが、ことごとく無視されました。それは多分、ここで書いたような「川と海の密接な関係」を、研究者もしっかりと理解していなかったからかもしれません。でも、日本海の水産研究に責任を持つ、とある国立研究所の方から頂いた下記の回答には、はっきり言ってブチ切れました。

・大命題過ぎる。
・海洋の知識を持っている方なら、簡単な話ではないことを理解できると思う。

簡単ではないからこそ研究者が奮闘しなければ、いったい研究者の存在意義は何なのですか?

ということで、宇野木先生のご高著「河川事業は海をどう変えたか」は、川と海の関係を一般の方に分かりやすく説明されている初めての本だと思います。先生のご専門は物理なので、36頁と37頁の生物に関する記載が最新の知見からは少々違っていますが、20年前にはこれが通説でしたから、大きな問題ではないでしょう。

三峡ダムの影響については、地理の後輩を含む若手の有志が、予算手当もないまま、自力で調査を始めているようです。エールを送りたいと思います。

河川事業は海をどう変えたか

河川事業は海をどう変えたか