琵琶湖の水草問題の現状と課題

今日29日のブログは、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター「湖岸生態系保全・修復研究会(第1回)琵琶湖の水草問題の現状と課題」を聴講してきました。ご講演の内容と感想をご報告します。

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浜端悦治「琵琶湖の沈水植物群落の変遷と水質変化−中国エルハイでの事例から今後の水草管理を考える−」
琵琶湖南湖(平均水深3.5m)での水草面積は、」1953〜1974年にかけて減少し、1994年の渇水以降は増加に転じた。平均水深44m北湖では1980年代から大きな変化はないが、コカナダモが減少している。
南湖では1994年以降の水草復活に伴い、透明度・リン・クロロフィルなどの水質項目数値は改善されている。
現在の南湖の水草の状態は分散型(背丈の高いものや流れ藻になるもの、コカナダモやクロモ)だが、これが後には定着型(センニンモ、ネジレモなど)に遷移するのかもしれない。

杉村重憲「琵琶湖の水環境現況調査と水辺の環境調査について」
平成11年度と17年度に沈水植物の季節変化調査をした。調査期間は5月〜3月の、水草が生えているときとした。南湖・北湖とも水深3〜4mで群落面積が最も広くなった。また平均植被率は10月に最大、平均群落標高は9月が最高になった。
水草の種類毎に繁茂している水深と粒径の関係を見ると、北湖は浅いところから深いところまで砂質堆積物があるが、南湖だと深いとすぐ泥になるので、水深と粒径のプロットが右肩下がりの傾向を示した。

芳賀裕樹「南湖における沈水植物の量的変遷とその要因について」
南湖の水草群落は多種類が混在する点に特徴がある。秋になると水草アオミドロなどの糸状藻がおおって、景観や水質の問題を起こす。また従来水草は魚類のレフュージと言われているが、現在、南湖に繁茂している背の高い水草については、利用しているのはブルーギルとタナゴなど、特定の形状をした魚類に限られているようだ。
南湖の水草を量的に検討すると、乾燥重量ではセンニンモが一番多く、次がクロモ、以下順にマツモ、オオカナダモ、ホザキノフサモ。これら5種類で99%を占めた。また全乾重量1万トンくらいだった。
戦前の南湖の優占種との違いは、ネジレモ、コウガイモ、フサモなどの背が低くてロゼット状の水草が昔ほどない。今は背の高いセンニンモ、クロモなどが多い。背の高いのが現在多いのは、戦前はハサミ竹などで採草されていたからかもしれない。
1994年の渇水がトリガーになったことは確かだと思うが、透明度から計算すると1980年代にも生えることができた年があった。従って、1980年代には他の要因が生えさせなかった可能性があり、まだ推定の段階だが、除草剤の影響だったのではないかと考えている。

(感想)
琵琶湖の水草問題は、自然科学的な関心からも人と自然の関わり方という観点からもチャレンジングな課題を提供していると思いました。
今の状態が分散型から定着型に遷移の途上なのかという問題提起がありましたが、私が過去5000年間の水草相の変遷を調べた西シベリアのベロエ湖では、フサモ、ヒロハノエビモ→イバラモ、シャジクモと変遷し、現在はシャジクモ類が非常に高密度に繁茂しているため、魚はほとんど住めない状況になっています。
そうなると、芳賀氏の発表でも指摘された、日本人は里湖的に水草帯を管理していたという観点が意味を持ってきます。江戸時代頃から人口密度が高い日本の湖沼では、本来、水草を刈り取ることが望ましい水環境を維持するのに必要なだとしたら、水草が肥料に使われない今日、刈り採った水草をどう利用するかが、今日的な課題となるのかもしれません。