ちょっとした行きがかりがあって、「ダム湖の陸水学」(Kent W. Thornton, Bruce L. Kimmel, Forrest E. Payne(編) 村上 哲生, 林 裕美子, 奥田 節夫, 西條 八束(監訳))
を読んでいます。
私のフィールドは、大学に来るまでは海域の方が陸水よりも多かったものですから、西條先生の著作といってもダムはパス!それに訳書だし、と、先生の生前はついに読まなかった本です。
西條先生らしい配慮が感じられました。たとえば「はじめに」の注釈。
「土木学者と生態学者では、それぞれの研究者間で常識となっている専門用語が異なる場合がある。そのために本書では、主な専門用語の後に*マークをつけ、巻末に「用語解説」としてまとめて記し、その理解に少しでも役立つようにした。また、日本語と英語の詳しい索引もつけた。」
この「用語解説」だけでも持っておく価値あり、の本です。例えば「カ行」の見開きに並ぶのは「化学躍層」「河道次数」「帰無仮説」「K戦略」「ケルヴィン・ヘルムホルツ不安定」。陸水学、地形学、生態学、流体力学に論理学のおまけつき、て感じです。
索引も、英和と和英それぞれに本書の該当するページが記載されていて、「用語解説」「索引」を合わせて、この分野の英和辞書としても使えます。
そして「おわりに」にはこうあります。
「本書で取り上げているダム湖は、我々が関わっている日本のダム湖とは、その性状がだいぶ異なっていると思われる場合が多い。しかし、この本を通読して強く考えさせられるのは、日本のダム湖についてのこれまでの調査・研究の大部分が、それぞれの専門的興味から出発した個別的な問題で終わっており、本書に示されているような総合的な視点(これを陸水学的と言ってよいかと思う)が著しく欠けていたことである。」
どのように「総合的」なのか、下記に目次をペーストします。
【主要目次】
はじめに/序/目次
第1章 ダム湖陸水学の概観(ダム湖の特性/References)
第2章 ダム湖における物質輸送過程(輸送作用/成層とポテンシャルエネルギー/気象の影響/流入水/流出量とダム湖の取水操作/結論/References)
第3章 堆積過程(集水域の特徴と土砂の輸送/堆積パターン/関連性/考察/References)
第4章 溶存酸素の動態(ダム湖内の溶存酸素分布に影響する要因/ダム湖の深水層における酸素欠乏の一般的なパターン/上流から下流への酸素減少パターンにみられる一般的な変動/結論と推論/References)
第5章 ダム湖の栄養塩の動態(栄養塩の流入/ダム湖内の作用/ダム湖の取水操作/概括/経験モデルの提案/References)
第6章 ダム湖の一次生産(ダム湖の一次生産者と一次生産を制御する環境要因/ダム湖内における環境勾配−植物プランクトン生産量への影響/植物プランクトンの光阻害/ダム湖の植物プランクトンによる従属栄養/濁水の流入とダム湖の植物プランクトンの生産量/経験的モデルとダム湖の生産力/連続したダム湖における植物プランクトンの生産力/結論/謝辞/References)
第7章 動物プランクトンにとってのダム湖環境(動物プランクトンにとって重要であろうダム湖と天然湖沼との違い/必要資源の空間的変化がどのように形成され,どのように動物プランクトンの個体密度を制御するか/資源の特性/懸濁土砂が動物プランクトンの摂食率や生存率におよぼす影響/ダム湖における動物プランクトン分布に関係する必要資源モデル/謝辞/References)
第8章 ダム湖の魚類についての概論(産卵の成否に影響する要/幼魚や小魚の生存に影響する要因/魚類の摂食に影響する要因/ダム湖の魚類の摂食に濁度がおよぼす影響/ダム湖の魚類生産力/References)
第9章 ダム湖の生態系: 結論と展望(ダム湖と天然湖沼の相違点と類似点/展望/謝辞/References)
おわりに/用語解説/日本語索引/英語索引
- 作者: 村上哲生,林裕美子,奥田節夫,西條八束
- 出版社/メーカー: 生物研究社
- 発売日: 2004/07/15
- メディア: 単行本
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