質量分析計のグレムリン効果

質量分析計を用いた安定同位体比の分析は、私の主な研究手法です。この質量分析計、私が就職した頃と比べると隔世の感があるくらい使いやすくはなっていますが、まだまだ一般向けの装置とは言えません。しばらく分析しないでから立ち上げようとすると、ウン百万円を要する致命的なトラブルが発生したりします。
これは日本に限らず、世界的にもそうです。
安定同位体に関するメーリングリスト(ML)であるISOGEOCHEMに、クリスマス頃から「トラブル発生」メールがいくつか投稿されました。それに対して、この世界では大御所の一人であるUSAの教授が返事していましたが、アメリカンらしいジョークに満ちていて、かつ現状を的確に描写していて面白かったので、抜粋とその私訳を掲載します。科学者の日常の一端をお楽しみください。

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Based on the current isogeochem traffic, I am beginning to suspect that Christmas Gremlins have taken over the isotope geo- and biogeochemistry field. These Gremlins (and also Fairies) have been noticed previously.
They often "infect" your laboratory during vacation periods, any major holidays, and also at times not previously discussed--abstract, presentation, and proposal deadlines.

年末年始のIsogeochem MLの投稿内容を見るにつけ、クリスマス・グレムリン安定同位体地球化学・安定同位体生物地球化学分野を占拠したんじゃないかと思います。
これらのグレムリン(と妖精達)は以前にも気づかれていました。彼らはバケイションや連休、そしてこれはMLでは指摘されていませんでしたが、アブストやプレゼン、予算申請書の締め切り近くになると、あなたの実験室を感染させます。
(山室注:グレムリンとは機械に悪戯をする妖精。かつては、人間に発明の手がかりを与えたり、職人達の手引きをしていたが、人間が彼らに敬意や感謝をせずにないがしろにしたため、しだいに人間を嫌って悪さをするようになった。20世紀初頭にイギリスの空軍パイロットの間でその存在が噂されたのが始まりと言われている。機械やコンピューターが原因不明で異常な動作をする事をグレムリン効果といったりする。---Wikipediaより)

Other than making your instruments work all the time and running yourselves into an exhausted state, you can attempt to fool these thoughtless machines by keeping them in slightly darkened rooms with no actual windows (this way they may not notice the changes in seasons); have lights turn on automatically each day (even if you are away drinking eggnog); always wash your hands before touching the computer's keyboard (thus avoiding sending subtle chemical signals of apprehension or stress to the mass spec and peripherals).

あなたのマスとあなた自身が働きづめになる以外に、この脳ミソのない装置をだます方法として、窓のない少し暗めの部屋に置き(これで季節変化を察知されずに済みます)、照明を自動的にオンオフさせて(たとえあなたが祝日のために装置を離れてエッグノッグを飲んでいたとしても)、オフから戻ったら手を洗ってからパソコンのキーボードを触るようにしましょう(これにより、わずかな化学物質がマスと周辺装置にストレスを与えることを防ぎます)。