都内の地下水

土木学会誌4月号の記事「都市の地下水とヒートアイランド対策」には、都内の地下水の諸問題が一般読者向けに分かりやすく解説されています。それによると、ひと頃の過剰な地下水くみ上げのようなことは今はないにしても、下水管や地下鉄への漏出が起こっていて、合わせると1日30万立方メートルになるそうです。逆に上水道の漏水や公園などでの過剰灌漑によって地下水が涵養され、一部では地下水位が上昇しているそうです。その結果、例えばJR上野駅新幹線ホームでは、設計時よりも地下水位が20m上昇し、地下駅全体が巨大な浮力を被ることになってしまいました。そこで3万7千トンの鉄塊を搬入し、浮力の増加に対処しているそうです。
このように人為的影響を強く受けている都内の地下水ですが、これほどまでの影響がなかった1889年当時の状況が、地学雑誌第一集第三巻「東京近隣の地質と水脈」に記載されています。当時の日本語は現代人には分かりにくいため、現代文に訳されたものが、同じ地学雑誌2007年5月号に掲載されています。それによると既にその頃、昨年、渋谷の温泉でメタン爆発事故が起こった原因である、化石海水の存在が記載されているそうです。
水面下の世界同様、地下の世界も一般人には馴染みが薄いもので、有益な情報がうまくいかされないことが多いと考えられます。明治維新後の日本の発展に大きく貢献してきた地質調査所(Geological Survey of Japan)が産業技術総合研究所の一事業所に改組されたのも、地下情報の重要性が、一般には理解されにくいからだったのかもしれません。しかしながら、一般に分かりにくいからこそ、専門家集団としての存在意義があるわけです。内容そのものの理解は難しいにしても、そういう分野も育てていく必要があるとの認識は広まってほしいものです。