化学物質の複合影響

化学物質が水界生物に与える影響と言えば、日本ではまず「ああ、環境ホルモンね」という感じでしょうか。有機スズによる巻き貝のインポセックスとか、ノニルフェノールによる魚の雄の雌化とか。自然環境を専門にしている方の間でも、意外とそういうイメージが持たれているようです。
化学物質の知見が増えているのに、このように、とても狭い影響しか思い浮かばなくなっているのは、先進国ではむしろ日本が例外かもしれません。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」のように、日本では有吉佐和子の「複合汚染」が、化学物質が環境に、そして人間に与える影響を個別に見てはいけないのだと訴えていました。特に後者は、科学者が書いた本以上に、現象を理解するきっかけになっているようです。

複合汚染 (新潮文庫)

複合汚染 (新潮文庫)

このように個別の物質が何にどう、という見方では、もはや水環境は守れないとして、アメリ環境保護局では排水規制にWETという概念を持ち込んでいます。
Whole Effluent Toxicity (WET) refers to the aggregate toxic effect to aquatic organisms from all pollutants contained in a facility's wastewater (effluent).
日本では生態毒性の概念が希薄ですが、たとえば私の研究テーマである「除草剤が水草を衰退させたことで日本の湖沼生態系の多くが激変した」という話題などを通じて、この専攻の学生さんには化学物質が生態系に与える影響についても他の先進国並に理解できるようになってもらいたいと思います。