エコでファミリアな学会

カナダのセントジョーンズで開催されている2008 ASLO Summer Meetingに出ています(ASLOとはLimnology and Oceanographyを出している学会です)。
この大会は「We have made substantial efforts to reduce the environmental impcts of this meeting」と明記しているだけあって、これまでに無いことがいくつかありました。
まず、レジストレーションで渡されたのが、プログラムと名札、ポスターセッション期間2回分の飲み物チケット、蓋つき軽量コーヒーカップ。それだけ。それが袋にも何も入れずにバラで手渡されます。要旨集はインターネットからダウンロードして各自のPCで見るように、とされていました。
休憩時間の飲み物には手渡されたカップか、ホテルが用意した磁器のカップを使います。水もガラスのピッチャーに入っていて、用意されているのはガラスのグラス。使い捨ての紙コップやペットボトルは無く、いつもなら飲み物と一緒にクッキーやチョコなどもあったのに、これもゴミが出るからか、今回は飲み物だけでした。
夕方のポスターセッションは、この大会ではアルコールを含む飲み物と軽食が会場に用意され、軽く一杯入れて議論が大いに盛り上がるのですが、ここでも使い捨て食器は一切排除されていました。
徹底してるなあ。。。と改めてプログラムを見たら、今回は会場を結ぶシャトルバスもなし。歩くか公共交通機関を使うように、ということでした。
次の大会はニースなのですが、ニースではさすがにここまでしないだろうなと思います。


私にとってこの大会で参考になるのは、5月28日に紹介したPlenary Lecturesと、その日のセッション後に行われるAward Talkです。後者は日本でも「〜学会賞」という形で似た話を聞けますが、前者はLectureなので、広い視野からの視点を聞けるのが楽しいです。
10日のPlenary LecturesはPeter Williams氏による「A look back at the major advanves over the past 25 years in Limnology and Oceanography」でした。ミランコビッチサイクルの話からEppleyの仕事に進むところはフンフンでしたが、それがMartinの鉄仮説の紹介に結びついた時は、過去10年、脳の後遺症のおかげで不勉強が続いていた私には「そうだったのか。。。」でした。この問題を解決する為の技術進展として、突然に木製バケツの写真が大写しされるあたり、なかなか素敵なプレゼンです。そして古環境変動を引き起こした原因を「Dusty answer」と称したのも印象に残るフレーズでした。
もう一つの進展として、こうはうまく行かなかった例として「microbial loop」の話をしていました。古環境変動の話もそうですが、こっちも私の専門からすごく遠いという話ではなかったので、「古環境変動と比べて、こちらの進展は紆余曲折があった」という説明はすんなり同意できるところでしたが、初めて聞く方には「???」な面もありそうです。多分、他の参加者にとっても、だから後でゆっくり話を読み返したいという需要があったのでしょう。今大会からPleanaryとAward talksがwebで見られるようになったと、プログラムに書いてありました。関心のある方はASLOのホームページから検索してみてください。
Award talksの方は、若手に送られる賞の受賞者が、Crenarchaeotaが窒素循環の中で重要な役割を果たしているバクテリア群であることを証明した仕事に対してでした。また、現在につながるエポックメイキングな論文に与えられる賞は、受賞者が「さっきの若手の仕事より30年も前の論文ですよ」との出だしで紹介した「Eppley and Peterson 1979 Particulate organic matter flux and planktonic new production in the deep ocean. Nature 282: 677-680」が対象でした。
今日のLectureやAwardからも分かるように、Limnology and Oceanographyでは、私が力を入れて取り組んでいる「水環境における物質循環、特に窒素循環」は、共通の重要課題であることは自明です。また話のスケールも時空間的に大体似ているので、来るたびにホッとする大会です。かたや所属している自然環境学専攻陸域分野では、私以外のスタッフは森林や土壌、地形や景観がご専門の方々なので、窒素循環の研究は重箱の隅とのイメージを持たれがちで、やりきれなくなることもあります。そうでないことを理解していただくことも大切ですが、陸域の事情に囚われる筋合いは学生さんには全くないわけですから、広く世界で通じる仕事をするよう努力する方向で頑張ってほしいと、改めて思いました。