参考書10「洪水がつくる川の自然」

樹林化が進行している日本の河川の生態系に関する、唯一と言える参考書だと思います。
同時に、近頃はフィールドワークを重ねることなく生態系を論ずる研究者が皆無ではない中、フィールド研究のあるべき姿を学ぶことができる貴重な書です。
もしあなたのフィールドが、何年かに一度の洪水で流されてしまったら、あなたはどう思うでしょうか。本書の著者は、それが川の自然なのだと、これはそういう自然で生態系がどのように維持されているかを観察できる貴重な機会なのだと捉えます。それが原点となって「洪水がつくる川の自然」という観点から、流域を捉えていきます。
最近は流域圏という言葉を多く見かけるようになりましたが、流域における土砂移動であったり、水質変化であったりと、場の範囲は広く捉えても、現象については特定の観点からという研究が大部分です。専門性を高めるためにそのような本も必要です。一方で本書は、ダイナミックに動く川が作った流域における現象を、総合的(山室用語では「地理的」)に解析している点が、環境を総合的に理解したいと希望する学生さんにお勧めです。
人間による川の改変によって、洪水時に土砂が動くところと動かないところがあること、それにより樹林化が進んだところとそうでないところがでてきたこと、また樹林化により、本来は森林に住む動物が河原で観察されるようになったことなど、生態系研究の面白さが伝わってきます。

洪水がつくる川の自然 千曲川河川生態学術研究から

洪水がつくる川の自然 千曲川河川生態学術研究から