ASLO Aquatic Sciences Meeting 2009 (2)

大会2日目の1月27日、8時からのPlenary LecturesのタイトルはIs there a link between biodiversity and ecosystem function in aquatic systems?でしたが、2講演とも「なるほど」と思えませんでした。とは言え、Plenaryに取り上げられる話題なのだから理解しといた方がよいだろうと思って
101 Aquatic biodiversity and ecosystem function
というセッションの話題を3つ聴講しました。

最初のは、水草が同所的に4種類生息しているフィールドで、1,2,3種類を植え込む実験を行い、地上部・地下部の生産量を比較したという報告。1種類だけの方が競争がなくて全生産量は最大になるのかと思いきや、3種類植えた方が地上部・地下部とも生産量が大きかった。しかしどうしてそうなるかの具体的なメカニズムは分からないということでした。
次の報告は、培養して同位体で標識した植物プランクトンをミックスしたシリンダーに、動物プランクトン、貝、多毛類などを1種類ほりこむか複数種ほりこむかでそれぞれの動物が取り込んだトレーサーがどうなるかを示したもの。貝や多毛類は堆積物がない環境でかなりのストレスを受けているはずなのに、こういう実験系ででてきた結果に意味があるのだろうかと思ってしまいました。
最後のは培地の種類とバクテリアの種類を数種類づつ用意して、1種類づつだけの組み合わせ、2種類づつの組み合わせなど、考えられる組み合わせを全てプレートに作ってバクテリアの増殖状況を調べるというもの。タイトルは
Bacterial model systems as tools to test relationships between biodiversity and ecosystem services.
バクテリアの実験はbiodiversity and ecosystem servicesの関係を調べるツールとして使えるとはPlenaryでも話していましたが、具体的な実験方法やその結果を見ても、これがbiodiversity and ecosystem servicesのモデルとして使えるとは、想像力乏しい私にはとても思えませんでした。私の研究スタイルが、自然の仕組みをシンプルにして実験するタイプではなく、「フィールドは自然の実験場」だからかもしれません。趣味の問題でしょう。

午前の残りの時間は
053 Sediment biogeochemistry: advances in measurement and modeling
とのセッションから3題聴講。堆積物の話を聞くとホッとします。

Briggs, R. A.; Ruttenberg, K. C.; Glazer, B. T.; Sulak, D. J.: RELATIVE BIOAVAILABILITY OF DISSOLVED ORGANIC PHOSPHORUS (DOP) VERSUS PHOSPHATE (PO4) IN FE-RICH COASTAL SEDIMENTS
ワイ島にある汽水環境になっている池でコアを採取し、間隙水中DIN、PO4−P、DOPの深さ方向の濃度変化を調べた。アンモニアは深さ方向に増加しているのにPO4−Pはある深さからは検出されなくなった。DOPはPO4−Pが検出されなくなった深さ以深も検出された。ハワイ島の地質は鉄分が多い岩石で構成されているので、PO4−Pは鉄に吸着されたと考えた(と聞こえたけれど、これまでの知見ではこういう説明にはならない気がする。聞き落としたかも)。

Palastanga, V.; Slomp, C. P.; Heinze, C.: THE MARINE PHOSPHORUS CYCLE IN A BIOGEOCHEMICAL OCEAN MODEL: RESPONSE TO CHANGES IN SEDIMENT REDOX CONDITIONS
HAMMOCという、堆積物での炭素・窒素・リンの挙動をひとつに組み込んだモデルを使って全地球レベルでのリンの収支計算をした。海洋堆積物へのburialは実際よりも過小評価になったが、この原因としてダストの影響が過小だった可能性がある。
(ポスターセッションに、サハラ砂漠から地中海へのmineral dustを通じた物質供給を扱ったものが3題あり、そのうちのひとつがまさしくリンの供給でした。ヨーロッパではダストによる物質供給という現象が身近に感じられているのかもしれません。黄砂が関東地方まで降ってくる日本も、実は同様の影響が出ているのかも)

Trimmer, M.: ANAMMOX AND DENITRIFICATION: FLEXIBLE FRIENDS IN MARINE AND ESTUARINE SEDIMENTS.
堆積物のアナモックス活性を測るのに、従来はスラリーを用いていた。しかしスラリーでは堆積物の構造を乱すので、柱状のコアのまま深さごとのアナモックス活性を測定した(測定方法はいつもの15Nトレーサー)。その結果、スラリー法と今回の方法で得られたアナモックス活性速度に線形関係が認められた。また堆積物の有機物濃度が高くなるほど、全N2生成量に対するアナモックスの寄与が小さくなる傾向が認められた。

午後は
062 When Rivers Run Dry: Implications for Biodiversity and Ecosystem Processes
のセッションChairによる下記30分講演を聴講。

Sabater, S.; Romani, A. M.; Tockner, K.: HYDROLOGIC DISCONTINUITY IN RIVER SYSTEMS: IMPLICATIONS FOR ORGANIC MATTER, BIODIVERSITY AND METABOLISM~
ヨーロッパは地中海沿岸のみならず全体的に、長期的には水不足状態になると予測されている。つまり一時的なdroughtではなく、構造的なscarcity状態になる。
現時点で多くの河川が、夏季に干上がる現象が起こっている。これらにより水質の悪化、流量の低下(これも水を停滞させることで水質悪化を加速)、生物への影響(その場所のみならず、下流域のthermal refugeも消失する)、様々な河川プロセスへの影響が懸念される。

上記だけ聞いた段階では、最近になって「初めて」河川が干上がるようになったと認識しましたが、ポスターセッションで「地中海沿岸の小河川は昔から夏季には干上がっていた」と教えてもらいました。問題になっているのは、それまで干上がってなかったような大きめの河川も干上がるようになったということらしいです。

長くなるのでポスター発表のご報告はまた別途。