ASLO Aquatic Sciences Meeting 2009 (3)

ASLO Niceの報告最終回は、面白いと思ったポスターをご紹介します。
まずは陸水研のメインテーマである酸性雨から、
Airborne acidification of headwaters: Can it be differentiated from natural conditions using biota?
「Although anthropogenic acidification of lakes in the Central and Southern Alps is well known, the effects of airborne pollutants on springs and headwater streams have hardly been documented」とあるように、アルプスでは酸性雨が渓流水に与える影響は調べられてなかったそうです。それで調べたというこの研究、結果はクリアカットではないですが、アルプスの酸性雨に関する文献を孫引きするには役立ちます。

「When Rivers Run Dry」セッションのポスターから2つ。
Fish assemblage and trophic ecology of an intermittent tributary and neighbouring permanent reaches
X日に紹介した「地中海沿岸の小河川は昔から夏季には干上がっていた」と教えてくれたのがこのポスターの演者。それで魚も季節的に干上がる環境に適応していて、干上がりそうになったら大丈夫そうな大きな河川や池に移動するそうで、特にその能力に優れているのがCyprinidae科の2種類の魚なんだそうです。
Bacterial communities and microbial activity in Mediterranean and central European streambed sediments recovering from desiccation
川が干上がってしまったら、堆積物に生息するバクテリアに影響があるんではないかとの研究。ポイントは、地中海沿岸だけでなくドイツ中央部(Hesse)の川でも、今では夏に干上がるという点。でも結果としては、水が復活したら2~4日でバクテリア相は干上がる前と同じ状態に戻って、その観点からは特に問題ないだろうと話してました。

Aquatic Macrophyteから3つ。
Temporal and spatial distribution of submerged vegetation and diaspore bank of brackish coastal lagoons on the southern Baltic Sea.
バルト海沿岸で現在の植物相と堆積物(表層10cm)の埋没種子を比べた研究。「その心は、現在の植物相と種子・卵胞子の出現関係を明確にした上で、もう少し深いところまでコアをとって環境変化と植物相との関係を調べる為ですか。それともシードバンクとして今いないけど種はたくさんあるという種類を復元する為ですか」と尋ねたのですが、どちらでもなくて、ともかく比べて、10cmの間に某シャジクモが生えにくい環境から生えやすい環境になったことを言いたかったんだそうです。
バルト海って、汽水だからシャジクモなんてマイナーだと思っていたのですが、アマモよりもシャジクモの方が埋没種子からはメジャーらしく、また実際、今でもメジャーなところがあるそうです。特におもしろいのは演者のメインターゲットであるTolypella属のシャジクモで、現在は塩分が10psuの水深4mまで生えていますが、かつては3psuまでの浅いところにしかいなかったそうです。このことからかつては塩分が制限して浅いところまでしか生えていなかったのではなく、透明度が低かったから深いところまでいけなかったのだというのが結論でした。

Competition and coexistence of submerged macrophytes.
CharaとMyriophylumの競争関係を実験で再現してました。オーストラリアのマイオール湖で、Charaがベッドを作っているところにはMyriophylumが入っていけないのを見て、どうしてそうなるのか論文を書いているところなのですが(大学に移ってから2年近く、細切れ時間のおかげで全然進まないのですが)、ドイツでも同じ現象があるんですね。この実験でも、ひとたびCharaがベッドを作ってしまうとMyriophylumが入っていけないという結果になっていました。詳しく内容を聴きたかったのですが、説明担当の日に聞きそびれてしまったのが残念。

How much submerged vegetation is needed for a stable Clearwater state? Phytoplankton biomass and composition in intermediately vegetated shallow lakes.
水草が湖面積の20%くらいカバーしたら透明な状態が維持される、という説明でした。この情報も興味深かったのですが、質問しているうちに脱線して、温暖化したら珪藻が減ってラン藻が増えると思ってるんだけど、どう思う?て尋ねたら「その通り。もう論文も出してるから名刺ちょうだい、PDF送るから」
翌日の夜にはしっかりその論文が届いていたことに感銘したのでした。

最後にアナモックス。このネタは異なるセッションに分散していて、私が気づいたのは3つくらい。いずれもエスチャリーから海で、淡水は皆無でした。
Patterns of anaerobic ammonium oxidation activity in temperate estuarine sediments.
ポルトガルエスチャリー堆積物で、うちのM2のT君と同じトレーサー法で調べてました。その結果、これまでに報告された活性速度をはるかに上回る速度が得られたとあったのですが、T君がバックグラウンドについて細かく細かく検討した修論をまとめたばかりなので、本当かなあと思ってしまいました。トレーサー法の問題点、早く投稿論文にできるといいですね。
実はアナモックス速度は酸性雨に負けず劣らず研究者によって活性速度の単位が違っていて、これまでの報告を同じ単位に統一して比較する作業だけで、T君は2,3ヶ月くらいうなってました。ポスターの縮小版をゲットしたので、彼に見せたら何というか楽しみです。