福岡3児死亡飲酒ひき逃げ事件で大上さん夫妻が意見陳述

井上保孝・郁美夫妻からの「かな・ちかメール」から表記内容を転載します。「事故」で子供達を理不尽に奪われるということがどういうことなのか、日本という国がクルマによる殺人にいかに寛容すぎるのか、考えてみてください。

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第一審では危険運転致死傷罪が認められず、懲役7年6ヶ月の判決が言い渡されてしまった福岡の3児死亡飲酒ひき逃げ事件。

このまま手をこまねいて刑事裁判の経過を見ているのは本意ではない。「ベストを尽くしたい」と、亡くなった3児の両親である大上哲央(あきお)さんとかおりさんが、昨日(1月30日)福岡高裁で被害者として意見を陳述しました。

「今林大さん、あなたは今回の事件を本当に反省しているのでしょうか。」法廷中に響き渡る声で、まず哲央さんから陳述を始められました。
以下、お二人の意見陳述の要旨を抜粋して御紹介します。

■大上哲央さん
「事故が起きたのは、私の居眠り運転や急ブレーキをかけたことにも一因があるという、弁護側の主張により今日までいわれのない中傷を受け、苦しめられてきた。もし私がそのような状態であれば、子どもを助けられているはずが無いのに、子ども達を助け出そうとしたその行為まで否定されてしまった。

あなたが正常な運転が出来ていた、というのが本当なら、あなたの取った行動は真っ暗な海に人を落としたまま逃げるという、殺人行為に等しかったのではないかと思う。

車の中から助け出した倫彬、紗彬の二人は私の腕の中で生きていた。もしあなたが救助する努力をしてくれていたのなら二人の子どもは助かっていた。しかしあなたは現場から卑怯にも逃げた。二人の子ども達は私の腕の中で亡くなった。紘彬を海中の車の中で死なせてしまったことを思うと、心の中が深い悲しみでいっぱいになってしまう。

あなたは二度も保釈され、普通の生活が出来ている。対して私は、うずくまるほどの頭痛に2年5ヶ月経った今も襲われている。世間の注目を浴び、人に付きまとわれ、誹謗中傷を受けるなど、穏やかに生活をする場所さえも奪われてしまい、子ども達の生まれ育った福岡で暮らしたいという希望まで奪われ、今は新たな土地で暮らしている。

あなたの両親や周囲に居る人はあなたが真摯に反省する機会を奪っている。あなたは他に責任を転嫁し、今後も罪と正しく向き合うことなく、自己保身に走るのではないかと案じている。第一審の懲役7年半だけで社会復帰したとしても、そんな短い期間を刑に服しても反省することはできない。虚偽の事実によって私に罪をなすりつける様子は開き直りともとれ、到底反省が伝わるものではない。
裁判所には求刑通りの判決を言い渡してくださることを望む。

■大上かおりさん
事故の直前まで車内では、夫婦で11月の七五三に子ども達にそれぞれ何を着せるかを話していました。夫は居眠り運転はもとより急ブレーキもしていません。弁護側の主張によって、私たち夫婦の素朴な会話までも否定されてしまいました。

今林大さん、あなたは3人の命がどのようにして奪われてしまったか理解できますか? 海の中で先に助け出した二人の子ども達を抱えた夫が流されているのを見て、まだ車中にいる紘彬を助け出すために再度潜るか、夫のもとに行って、倫彬か紗彬のどちらかを受け取るか、恐ろしい選択をせざるをえなかったときに、あなたは何をしていましたか?追突した車がどうなったかを確かめることもせずに逃走し、友人に身代わりを頼み、水を持参させ、それを飲み…。

今林大さん、あなたは3人はどのような子ども達だったか、知っていますか? 幾度もの流産・難産の危機を乗り越えて生まれた紘彬は、あと2週間で5歳になるはずでした。倫彬は、3歳3ヵ月。お兄ちゃんになれたことが嬉しくて紗彬にご飯を食べさせてあげる優しい子。紗彬は、1歳2ヶ月。我が家のアイドル。あの事故の日の夕食に、
「おおがみさあやちゃーん!」と呼ばれて初めて両手を上げて「はぁーい!」と返事をしたのが最初で最後の言葉になってしまいました。紗彬は上の歯と下の歯が4本ずつしかまだ見えていませんでしたが、火葬された後、奥歯まですべてそろっていました。これから成長する準備をしていたのです。

3人の遺骨は、火葬場の人から「こんなにしっかりとした子どもの骨は見たことが無い」と言われました。それぐらい食育にも十分に気をつけ、愛情をかけて育てていたのです。

私自身も事故から2年5ヶ月経った今も大きな苦しみ、ストレス、パニック障害、言葉が話せなくなってしまうなどのPTSDの症状に悩まされ入院や通院をしています。事故の際に体の中に入り込んだガラスの破片や貝殻が、痛みとともに体のあちこちから出てきます。

もしあなたがあの日、正常だったのなら、決して軽い衝突だったとは思わなかったでしょう。その後、被害車両の確認もせずに逃げることも無かったでしょう。あなたが取ったのは、常軌を逸した行動でした。警察官による職務質問の間に、あなたが橋の上から立小便をしたと聞きました。その海は、私たちが転落した海そのものだったのですよ!
警官の質問をはぐらかしたり、立小便をするといったことはあまりにも衝撃的でした。
あなたは正常な運転をしていた、とそれでも言うのですか?人の命よりも自分の社会的地位を守ることしか考えていなかったのでは?
あなたは飲酒運転の常習犯だったそうですが、常日頃から、水を飲んだり、逃げることのほうが得だと考えていたのですか?

この事故は過失によるものではありません。自分の意志で飲酒運転をし、そして逃走する、という二つの強い意志を持っておこなった殺人犯だと思います。
裁判所には求刑通りの判決を言い渡していただくようお願いします。

意見陳述を終えられた二人は、疲れをにじませていたものの、すべて思いのたけを言い切った、晴れやかな顔をされていました。
傍聴席を含め全ての人の心を打つ、すばらしい意見陳述でした。

私たちはこの日初めて被告が鼻をすすり、涙を拭く姿を見ました。これまでの2年5ヶ月、両親にも弁護人にも司法にも守られ続けてきた被告が、この日初めて自分の犯してしまった罪が、決して軽くないものだということに気が付いたのかもしれない、と思いました。

次回2月27日に最終弁論、論告求刑があり、その次がいよいよ判決の言い渡しとなります。