吉川虎雄先生への追悼文

先日届いた地学雑誌118巻2号に、吉川虎雄先生の追悼文が掲載されていました。
吉川先生は私が学部3年の時に東京大学理学部地理学教室を退官されました。ましてや地形学の大御所の先生と陸水学やっている私との接点なんて全くないと、地学関係者は思われているかもしれません。
これでも私は大学院生のときに、海岸地形の共著論文を2本出しています。多毛類ヤッコカンザシを利用した地震隆起量復元に関する研究で、これは下手すると私の陸水関係の論文よりも後世まで引用されるんじゃないかと思われる大発見でした。
このヤッコカンザシを吉川先生にご紹介するために1985年11月、私を含め学生4名と房総半島に行きました。いかにも歩くのがとろそうな私に合わせて下さったのか、追悼文にもある有名な「足の速さ」は控えて下さいましたが、「犬が苦手」は確認できました。茅根さんは確かに、犬を飼っているお宅の前を通らないルートを用意していました。
そうそう、吉川先生の退官記念に地理学教室でささやかな会を催したとき「退官記念品です」と茅根さんが渡した大きな包みの中身は、虎のぬいぐるみでした。しかもその虎の口には子犬が縫いつけてあります。古くから教室におられた方々は見た途端に大笑いされ、小堀巌先生なんか涙が出るくらい笑ってました。何でそれほどみなさんが笑うのか当時は分からなかったのですが、本当に本当に、犬が苦手でおられたんですね。
吉川先生は南極の調査にも参加されたと追悼文にあります。当時の地理学教室にはその時の機材がロッカーに残っていて、私はめざとくバッテリーチャージャーを見つけました。宍道湖突堤でポンプで採水するのにカーバッテリーを使おうと考えていたのですが、チャージャーが結構高額で困っていました。しめしめ、これは使えると思って指導教員だった阪口先生に「貸して下さい」とお願いしたら、「それは吉川先生が南極で使われた思い出深いものだから、一言お断りしておきなさい」と言われました。それで吉川先生にご連絡したら、「南極でも使えたものですから、フィールドでも安心です。よい研究をされてください」とのことでした。
ここ2,3年、学生のときにお世話になった方々が次々と亡くなられるのですが、そのたびに、ここまで仕事を続ける上でいかに多くの方々にお世話になったかが身にしみます。そのご恩をお返しする先は、次の世代だと思っています。