マツクイムシ、里山、里湖

昨日の記事で、「松林を守るのは自明の理として、その必要性について検証していない。」というピコ通信の主張を紹介しました。ピコ通信では参照されていませんが、森林生態系について長年研究されていた四手井綱英先生の著書「森林はモリやハヤシではない―私の森林論」にそれに関わる記載があることを、私の本の共著者の方から教えていただきました。

森林はモリやハヤシではない―私の森林論

森林はモリやハヤシではない―私の森林論

以下、彼のメールから抜粋します。

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この本によると、農業経営がが肥料として里山に最も要求した元素はカリウムであって、それは落葉や下草から作られた緑肥や堆肥ではなく、燃料として使われた後の木灰こそが最も重要なカリ肥料であったとされている。
しかし、これによる里山の土壌からの長年に渡るミネラル分の収奪は里山の土壌と植生の劣化を招き、最終的には栄養分の乏しい土壌でも育つアカマツの単純な林となる場合が多いとのこと。
そして、里山的管理が放棄された結果、アカマツの疎林は海岸部を中心に松枯れを起こし、新たな植生に変わりつつある。

さらに彼は、私たちの著作である「里湖(さとうみ)システム」と比較しての感想をこう記しています。

里湖も里山と同様に沿岸農村集落の農業経営のための肥料の供給源、それもカリ肥料としての効能が各地で重要視されていた。
物質循環的にみると、里山は管理されていたとはいえ、次第に土壌が劣化して植生自体もアカマツの疎林に変化していったことから、持続可能なシステムではなかった可能性がある。
これに対して里湖は、平野部の湖沼や内湾が流域から流出する栄養塩の蓄積の場であったので、同じ様に栄養塩を吸収した植物組織を肥料として持ち出しても、水域のミネラル分の喪失にはつながらなかった。従って管理された形態で生態系を維持するのであれば、里湖は物質循環的に里山より、よりパーフェクトな持続可能なシステムであった可能性がある。

里湖(さとうみ)モク採り物語―50年前の水面下の世界

里湖(さとうみ)モク採り物語―50年前の水面下の世界

ちなみに、私たちの本の筆頭著者である彼は、中卒でしたが、通信制の大学で2つの学士号、1つの修士号を取得、コンサルとして長年、宍道湖・中海の業務に関わる中で得られた知見や古文書の記録をたどって、二枚貝ヤマトシジミと人間との関わりを物質循環も踏まえて学位論文にまとめ、PhDを取得されました。
私の専攻からもこんな論文博士を輩出できればと願っています。