日本医家伝

江戸時代中期から明治初期にかけての医家12人の紹介です。そして文庫版後書きに著者は、「時代は変転しても人間性は不変であり、江戸時代の医家の生き方が、そのまま現代の医家たちのそれと驚くほど共通したものがあることにも気づいた」とあります。
でも私は、今とは全く違う面に驚かされました。それは12人の中でただ二人とりあげられた女医、楠本いねシーボルトの娘)と荻野ぎんの晩年がどちらも、古い医学知識では通用しなくなり、患者がまれにしか来なくなり、孤独な死を迎えた、という点です。
そこで他の10人の晩年を見ると、医学以外のことで経済的・社会的に成功していたり、あるいは他の学問に打ち込んだりで、急になくなった方以外は、最後まで医院を開いて自身が治療に当たりながら晩年を迎えた例がなかったことに気づきます。
当時は、医家が今より格段に少なかったことから、男性である程度名を成した医家は、今で言う○○医学会会長とか名士として後半生を生き、晩年を迎えることができたのでしょう。そしてそれは、女性にとっては難しいことだったのでしょう。
しかし現代では、医局を出て勤務医になり、やがて個人病院を開きそのまま診療を続けるという医師がかなりいると思われます。そういう方々が「古い医学知識では通用しない」ので廃業という話を、あまり聞きません。最近は医学がそれほど進歩していないから?それとも、患者にどこが先端の知識があるのか情報が流れないから?さらには先端でやろうとすると、脳脊髄液減少症のように、新しいことを認めたがらない方面からの妨害が入るから?

日本医家伝 (講談社文庫)

日本医家伝 (講談社文庫)