ある学術雑誌に、浮葉植物ヒシによる水質浄化効果を検討したとする論文が掲載されていました。水槽に湖底泥をいれると栄養塩が溶出してきます。そこにヒシをいれるとヒシの水中根が栄養塩を吸収して水中の栄養塩濃度が減少し、いれないと減少しないことから、吸収後の草体の処理を適切に行えばヒシは水質浄化効果があるとしたものです。
M2のHさんにこの論文についてどう思うか尋ねたところ、「静置した水槽の泥からは栄養塩が溶出するかもしれないが、開放系である湖沼では必ずしもそうではなく、ヒシがない湖底泥からは栄養塩がそれほど溶出していないかもしれない。現場でのヒシの有無による差異を調べることなく、水槽実験の結果だけで浄化効果があるとしたこの論文の結果だけが一人歩きをして『ヒシを植えたら水質が浄化する』なんてことになったら怖いなと思う。」との答えでした。全くその通りだと思います。もし現場で、ヒシがないところでは溶出がそれほどなく、ヒシによって嫌気化したところでは活発に溶出していたら、ヒシは浄化どころか富栄養化を促進させることになります。
このように、論文に書かれているからといってその結論を鵜呑みにせず、議論が正しいかどうか批判的に読むようにして下さい。たとえば中海という汽水湖は、戦後に富栄養化するずっと前から湖心部は貧酸素化していましたが、柱状堆積物の解析から、1950年代になって貧酸素化が進んだとする論文が国際誌に通っていたりします。たぶん汽水環境に疎い方が査読したのだと思いますが。