“暗閣の世界"で生きたいですか

日本尊厳死協会のニュースレターが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の延命措置問題を取り上げたNHKスペシャル「命をめぐる対話〜“暗閣の世界"で生きられますか」を取り上げていました。患者のTさんは人工呼吸器をつけ、わずかに動くほおの筋肉でパソコンを動かし、意思疎通しています。2007年、「病状が進行して意思疎通ができなくなった時は呼吸器を外して、死亡させていただきたい」との要望書を病院に提出しました。Tさんは自宅で奥様をはじめ家族の介護と関係者の支援で「それなりに人生を謳歌している」と要望書に書いています。それでも「意思疎通が全くできなくなれば精神的な死を意味し、闇夜の世界に身を置くことになり、とても耐えられません」としています。
Tさんがいう“暗閣の世界"とは「閉じ込め症候群」のことです。ALSだけでなく脳の病気や事故で運動神経機能が損なわれた場合、意識は残るので音を聞き考えることはできるが、意思を伝えることができなくなることがあります。人工呼吸器や人工栄養の発達で、「閉じ込め症候群」生きる患者が増えているそうです。
しかし、精神的に追い詰められて死を望む患者の呼吸器を医師が外したら殺人罪に関われる可能性があり、Tさんの場合も結論は出せないでいます。
私も脳の病気なので、他人事ではありません。こんなことにならないように尊厳死協会に入ったのにと、持ち歩いている「尊厳死の宣言書」を改めて見たら、確かに、「数ヶ月以上にわたって、いわゆる植物状態になったときは、一切の生命維持措置をとりやめてください」とありました。ALSのように意識が残る状態は想定されていません。
病院が「社会で議論を」と訴えてからすでに1年半が経過しています。暗闇の世界にいる方々は「意識だけが正常」という、医学がこのように発達するまではどんな生物も経験したことのない生を、理不尽なまでに強制されているのかもしれません。
冒頭紹介した番組のタイトルは、なので私ならこうしたと思います。「命をめぐる対話〜“暗閣の世界"で生きたいですか」