読者からのお便りに答えて

浮葉植物については(特にヒシについては)、その弊害は海外では既に報告されており、また原理的にも浮葉植物が繁茂すると動物には悪影響を及ぼすことは明確なので、二番煎じで弊害を研究しても一流の雑誌に投稿することができません。このことが、アサザなどの浮葉植物の弊害に関する研究が少ない原因のひとつと思われます。
とはいえ関心がある日本の市民の方には、浮葉植物の繁茂が環境によいのか悪いのかの判断ができずに困っておられるので、手賀沼では私もお手伝いさせていただき、千葉県がハスの繁茂が手賀沼の環境にどのような影響を与えるかを調査しました。また機会を設けていただき、手賀沼環境保全に関心をもっておられる方々には私が直接、この報告書にもとづき現状を説明させていただきました。
概して、弊害を指摘するには誹謗中傷にならないよう、実験・観察に基づいて指摘する必要があります。一方でメリットを説く方々は、根拠無くバラ色の未来を提示されることがあります。それは未来のことなので、証明しないでよいのかもしれません(例えばアサザを植えることで、100年後には霞ヶ浦周辺をトキが舞うようになるとアサザ基金のホームページには書かれています)。
一般市民の方にとってどちらが魅力的かといえば、後者なのではないかと思います。水環境は多様な利用のされ方をしており、きちんとしたデータに基づいて将来設計をするのは、とても複雑で大変なことです。これまでそれができなかったからこそ、現在の水環境の様々な問題が起こっています。過去の人たちが無能だったわけではありません。例えばアサザを植えるという単独の対策で、すべてが解決するような問題ではなかったからです。しかしドラマとして楽しむには、問題を白か黒かに単純化して、その科学的根拠はさておき「みんなでこれさえすればよくなるんだよ」、の方が分かりやすいでしょう。
お便りには「山室先生達の声が早く一般庶民に届くよう切望します」とありましたが、たぶん届く日はないと思います。一般庶民の方は大部分無関心ですし、関心があっても、水環境の問題について、たとえば自分達が使っている合成洗剤や殺虫剤の影響、車の排気ガスの影響など(最近、「森もメタボ」など新聞でも書かれています)、考え出したらきりがない方向に行くよりは、適当な魔法があってほしいと望むのではないかと思うからです。