中海で行われている「?」なこと

島根県鳥取県に位置する中海は、日本で初めて大型公共事業が中止された湖沼です。その中海で、自然再生事業として「?」なことが行われています。
ひとつはコアマモという海草を植栽する事業。日本の海草藻場生態系の権威である向井宏先生は、海草を植栽する事業は自然再生にはならないと、断言されています(たとえば向井 宏:「里海」という言葉への警告, シンポジウム「『周防の生命圏』から日本の里海を考える」 月刊「むすぶ −自治・ひと・くらし−」,ロシナンテ社 454, 24-28, 2008年)。島根県には海草の専門家がおられませんので、間違った説が流布しているのかもしれません。しかも、もともとコアマモが生えていなかったところに植栽するのが、なぜ自然再生になるのか。コアマモを植栽しようとしている浅場は、水産サイドはアサリの増加を期待しているところです。コアマモは海外では侵略的外来種として悪名高い種で、生息できる動物を変えてしまうとされています(例えばGlobal Invasive Speciesのhttp://www.issg.org/database/species/search.asp?sts=sss&st=sss&fr=1&sn=Zostera+japonica&rn=&hci=-1&ei=-1&lang=EN)。総合的な議論が必要だと思われます。
もうひとつは、公共工事で造られた堤防を開削すれば、自然が元の状態に戻るという幻想。私たちのグループは、それはあり得ないと主張していました。しかし、見えるところが元に戻れば見えないところも元に戻るだろうとの分かりやすいイメージに押されたのか、開削してしまいました。その結果、私たちが危惧していたように、堤防のおかげで貧酸素化しにくかったところが貧酸素化するようになりました。
このように物理的な現象は明確にでていますが、それが生物にどのような影響を及ぼすかは、3年以上は様子を見る必要があると思っています。
熊本大学有明海)と島根大学(中海)が、合同シンポジウムを開くそうです。私は有明海問題に関して環境省の委員を務めたことがあります。有明海の場合、諫早湾の締め切りによって、潮流にどのような影響を与えたかが問題になりました。その有明海の締め切りと、干満差のほとんどない中海の堤防とでは、物理的な影響が全く異なります。潮汐差が大きい有明海で堤防が大きな影響を与えたとしても、中海でもそうだとはなりません。イメージだけの議論にならないよう期待したいと思います。