住民運動と自治体

陸水研は発足当初から、市民団体の方々からご意見を伺いながら、手賀沼に関わる研究を続けています。今年度は私の講演を聞いてくださった方から、過去の手賀沼に関する資料を貸していただきました。その中で「これは余分にあるので差し上げます」といただいた本が、西村肇「美しい手賀沼を甦らすことは可能か」で、先生が1994年に行った講演記録でした。実は西村先生は私の学位論文の副査だったので、これも何かのご縁かと思いました(しかもその本の表紙は、私の「里湖モク採り物語」と同じ図案でした)。
先生はこの本の中で、手賀沼の水質を回復する方法をいくつか提案されています。そのうちのひとつに北千葉導水があったのもビックリでした。北千葉導水は実現し、先生の予測どおり、アオコはなくなりました。しかしかつての生態系は戻る気配もありません。恐らく我々は次のフェーズにいて、西村先生の時代には(あまりに急激に環境が悪化したために)見えていなかった問題に直面しているのだと思います。
ではどうするか。その答えは、西村先生の本の結びとなっている下記の文章が方向を示していると思いますし、手賀沼ならば、それが可能だと感じています。

(以下、西村先生の本からの抜粋)
地域の自然の回復という課題はなんらかの形で、現に住民運動を担っている人々や、担い得るであろう人々が、古くからの居住者と協力して取り組むものとなる必要があるでしょう。そのためには、新しい住民が、悪い意味での「地域エゴ」を運動の過程で克服する必要があろうし、古い住民との交流と信頼関係を築いていく必要があります。
そしてそのように発展した住民運動は、自治体に「XXをつけさせる」式の活動から、市の担当者と話し合い、協力して運動を進める活動になっていくことでしよう。自治体は住民運動を単発的な西岸運動から、自分たちの居住地の問題を自主的に整理し、要求化して市行政に反映させていくものに発展させる必要があります。
この時、住民運動自治体にとってやっかいな存在でなくなり、行政に十分の根拠と展望を持つことが出来るようになりましょう。自治体は定義通り、自治体となるのです。