福島原発事故:想定された津波を想定外にしたものは何か?

3月31日記事で、東電は平成21年6月の審議過程で貞観地震の危険性を指摘されたにも関わらず、「学術的な見解がまとまっていない」として、津波想定の見直しを先送りしていたことを紹介しました。
その審議の様子を、4月9日付産経新聞が、より詳しく報道していました。末尾に全文ペーストします。
なぜ産業技術総合研究所の岡村氏が発した津波に対する警鐘を他の委員が無視したのか。
産業技術総合研究所は下記URLに示されるように、経済産業省のもとにある研究所です。
http://www.aist.go.jp/aist_j/outline/middle_target3/middle_target3_1.html
原子力安全保安院もまた、経済産業省の組織です。
産業技術総合研究所の地質分野は、例えば地層処理などでは、実施事業者からの独立性が担保できる体制のもとで、原子力安全・保安院等の安全規制当局ならびに安全規制行政への技術的な支援を、一元的な統括代表者のもとで推進していくことをミッションのひとつにしています。
http://unit.aist.go.jp/dgcore/intro/mission.html
このようなミッションを果たしてきた研究所の委員が津波対策の必要性を訴えたのに、対策が講じられなかったのは事実です(何のための調査・研究だったのか)。
岡村氏は自身がセンター長を務める活断層地震研究センターのホームページで「研究結果を周知しなかったことへの厳しい御意見も頂きました.研究成果は積極的に学会等で発表し,その内容はマスコミでもかなり紹介されてきましたが,情報を必要とする人たちには届いていなかったことも大きな反省材料です.」と書いています。
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/aisatsu.html
しかし、2005年には朝日新聞、2006年にはNHKと、その広報への努力は下記URLにある「貞観地震に関する成果報告,報道等」の通り広範に及んでいます。
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/Tohoku/press.html
平成21年6月に福島原発の安全性について議論された経済産業省の審議会で対策を講じる方向に舵を切ってさえいれば、平成23年3月11日まで1年9ヶ月もありました。岡村氏以外の委員は、もし研究者が上記以上に広報に努力をしていて、2年前に自治体や市民団体などから安全性を再検討するよう要請があったら、対策を講じるよう決議していたのでしょうか。

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平成21年6月に同原発の安全性について議論された経済産業省の審議会。委員の岡村行信産業技術総合研究所活断層地震研究センター長は「約1100年前の貞観地震では内陸3〜4キロまで津波が押し寄せた」との最新の研究結果を受け、対策の必要性を強く訴えた。
だが、東電は「学術的な見解がまとまっていない」と応じなかった。岡村氏は「精度の高い推定が無理でも備えるべきだ」と食い下がったが、審議会も東電を支持した。
「過剰な安全性基準はコスト高につながり、結局、利用者の電気料金に跳ね返ってくる」
震災前に東電幹部がよく口にした言葉だ。
国の原子力安全委員会の設計指針も、「電源を喪失した場合、復旧を急げばいいという思想に基づいており、過大な防護への投資を求めてこなかった」(関係者)。
安全とコストを天秤(てんびん)にかけた結果、危機の連鎖が幕を開けた。