川井唯史著「ザリガニの博物誌―里川学入門」

「ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ」「エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類保全と生物学」など、ザリガニ本を次々と出している川井唯史氏の、たぶん最初のザリガニ本。ニホンザリガニを中心に、ザリガニ類の生態や分布、進化など、幅広くザリガニの科学が語られています。それだけでなく、古文書に記載されたザリガニの利用法の紹介、茶碗や木彫り施されたザリガニのモチーフの写真、大正天皇即位式に食材としてザリガニが使われていたことなど、ザリガニに関する蘊蓄がそこかしこに記されていて、著者のザリガニにかける情熱が伝わってくるようです。
この本で著者が最も伝えたかったのは、子供達がザリガニ採りに夢中になって、里川で遊ぶことの重要性でしょう。
「子供が生き物を採ることは一見、残虐な行為に思えるかもしれない。しかし考えてみてほしい。生き物採集を行わなかった子供は、生き物と環境の関係がわからない。そのため将来、生き物がすむ環境の重要性が理解できず、環境に関心を払う大人になれないのである。」
自然を観察させるとか、植物を植えるとかなどのいわゆる「環境教育」から、「生き物がすむ環境」を理解する力は育ちにくいでしょう。水環境については特に、目的とする動物がどういうところに住んでいるか正確に予測することが採集の鍵になりますが、それが自然を総合的に理解する能力を育むことになると思います。

ザリガニの博物誌―里川学入門

ザリガニの博物誌―里川学入門