汽水湖化の現状

10日は環境省のワーキング関係で、塩分調節をしている山陰の汽水湖沼を視察しました。島根県の神西湖は写真のラバー堰で調節しています。

総工費5億円、ラバーなので頻繁に交換するのか尋ねたところ、20年以上は持つそうです。神西湖は宍道湖の倍くらいの高塩分で、漁獲対象になっている二枚貝シジミは、かつての宍道湖ほど生息密度と成長速度が高い状態を保っています。私がかねがね「今の宍道湖の塩分はシジミにとって低すぎる。シジミが減った理由の第一は塩分、次の可能性がヨシ植栽」と主張している根拠のひとつが、この神西湖での状況です。神西湖では、夏季に雨が続いて淡水流入が少ない時は堰を開けるです。こんなときこそ海水を減らして塩分上昇を防ぎたいところですが、そうすると淡水も入らず、海水も入らずで水温が上昇してシジミによくないそうです。「塩分が高くてもシジミは我慢できるが、水温が高いのは致死的」との漁業関係者の要望で、塩分が予定より高くなっても堰をあけているそうです。
鳥取県東郷池は、かつては鮒が主な漁獲対象種でした。現在は下の写真にある堰を使って塩分調節し、シジミが主な漁獲対象です。

塩分をいれるようになってアオコは発生しなくなりました。最近は淡水性の水草が生えて困ったことがあるそうですが、ここ2年間は生えていないそうです。
因みに東郷池と湖山池は、いずれも神西湖より大きく、私にとっては池というより湖というイメージなのですが、地元の方にとってはこれほど大きい湖を「池」と呼ぶことに違和感がないそうです。
湖山池は「池」とつく中では日本で最も広い湖沼です。ここは農業用水として使用するために堰を使って塩分をいれない操作をしていましたが、アオコとヒシの被害がひどいため、東郷池と同等の塩分を目指して、今年度に塩水をいれました。結果、ヒシとアオコは一掃されました。塩分が予定より高くなってしまったのですが、ここでも淡水流入が夏に少なく、海水の流入も減らすと流動がなくなって貧酸素化が加速されるとの判断から、海水側を開放せざるを得なかったそうです。塩分をいれることで漁獲対象として期待されているシジミは、予定通り定着したとのことです。

視察を通じて感じたのは、塩分調節は淡水流入量に左右されるので、どうしても高めになるリスクが高いとうことです。またシジミの漁獲を期待しての塩分調節の場合、同時に農業利用などはあり得ないという私の持論は正しいことを再確認しました。宍道湖程度の塩分でも、農業に利用されたことはありません(だから淡水化が問題になったのです)。その宍道湖の塩分でさえシジミには低すぎるのですから、農業利用が可能な薄い塩分で、シジミが安定して漁獲できることは科学的知見からも現状からも明らかです。淡水化後の八郎湖で、一時的に塩分が入ったことでシジミが大量に漁獲されたとの事例が、淡水利用とシジミ漁業の両立が可能とする根拠に利用されていますが、元データから洗い直す必要があるのではないかと思います。宍道湖のヨシ植栽事業にしても、元データを見たら、実はヨシを植えていないところの方がシジミが多かったということがありました。