加藤真著「生命は細部に宿りたまう」

日本では富栄養化以前に除草剤使用によって平野部湖沼の沈水植物が衰退したことは共著「里湖モク採り物語」や論文で記した通りですが、近年は除草剤使用の減少によって沈水植物が増えている水域があります。宍道湖がその例です。
しかし、かつては肥料用に刈り出されていた沈水植物が秋には大量に枯死することから、その復活は必ずしも歓迎されていません。現在増えている淡水性維管束植物だけなら塩分が増えると生えてこなくなる可能性がありますが、緑藻類のシオグサは塩分耐性がありそうです。
ではどうすればよいのか。ヒントになる記載を見つけました。
ラオスの片田舎には、まだ農業の近代化の波が押し寄せていない地域が残されている。そこでは、殺虫剤も除草剤も使用することなしに、かといって精力的な除草や害虫駆除なしに十分な収量の米の生産を達成している。」
ラオスの市場を見ると、水田に生えている雑草が実に数多く並んでいるのを目にする。アオミドロ、デンジソウ、ミズアオイの一種、オオミズオオバコ、イボクサ、ミジンコウキクサ、カオリシソクサ、ツボクサなとである。」
本にあった写真は下記です。上から2枚目は市場で売られているアオミドロ、4枚目はミズアオイです。


植物だけでなく、タンパク質もしっかり田んぼから得ているようです。
「また水田雑草に混ざって、タニシ類(、カニ類、糞虫類(水牛の糞につくものが多い)、ヤゴ類、スジエビ類、ゲンゴロウ・ガムシ類、イナゴ・バッタ類、コオロギ類、ケラ、カメムシ類、セミ類(水田周辺の雨緑樹林で採取、成虫も幼虫も)、タイワンタガメ(西洋ナンの香りがするため、食材として最も高価)、雑魚類、カエル類(成体もオタマジャクシも)等売られている。これらも、水田やその周辺の水路などで採取されているようだ。」
下の写真は左列の上からエビ、ガムシ類、イナゴ・バッタ類、カエル、右列はウキクサとデンジソウ、糞虫です。

私が小学校低学年までは、市場の魚屋さんでタニシのむき身が売られていて、夕食で食べていました。里湖の本にも書いた、田んぼに殺虫剤がまかれ、死んだ魚介類が水面を埋め尽くした日。あの日からだんだん、タニシが並ばなくなりました。
自然再生とは何かを植えるとか放流するとかで達成するものではなく、生活の在り方を見直すことだと、この本からも思いました。

生命は細部に宿りたまう――ミクロハビタットの小宇宙

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