ヨーロッパでもモク採り

日本の平野部にある湖沼では、1950年代半ばに除草剤使用によって沈水植物が衰退するまで、それらを肥料用に刈り出していました。当時の状況は拙著「里湖モク採り物語」などにまとめました。水草・海草のことを全国的にモクとかモバと言っていたのが面白く思いました。
この研究を進めていた頃、海外の状況も調べました。アメリカではアマモを難燃材に加工する工場があり、その写真も紹介されていました。日本でも八郎潟宍道湖水草を難燃材として利用しているとの記載があります。
またヨーロッパでは肥料としてアマモを使用しているとの文章は見つかったのですが、英語で検索する限り、写真は見つかりませんでした。
4年前のラグーン関係の学会で、日本でのモク採りを紹介したところ、ポルトガルの大学で教授をしているAさんが、「ポルトガルでもやっていたと思う」と発言、最近になって「これがそうだと思う」とURLを送ってくれました。見るとポルトガル語だけのサイトだったので、私が検索したときに見つからなかったようです。
http://www.prof2000.pt/users/hjco/aveirria/Pg000120.htm

http://www.prof2000.pt/users/avcultur/diamdias/moliceiros2_30.htm

ポルトガル語はよく分からないのですが、ちょっとだけ知っているラテン語から類推するに、 "se utilizam como fertilizante de terras agrícolas" との文章は "whose utilization is as
fertilizer of the farmer's land"という意味だと思います。
あちらでは日本や中国のように「はさみ竹」は使わず、日本の「モク採りマンガン」のような鋤を使っていたようです。

http://www.prof2000.pt/users/avcultur/diamdias/moliceiros30.htm

閉鎖性が強い水域に水草が繁茂すると、刈り出さない限り底は有機汚濁によって嫌気化し、魚介類が住めなくなります。洋の東西を問わず、今よりははるかに自然環境と持続的につきあっていた頃は、ヨシを焼いたり絶滅危惧種も含む水草も刈り出したりして、それが結果的に多様な生物が住める環境を維持していたのだと思います。
一部の保全生態学者の主張のおかげで、日本では児童を巻き込んで、湖にヨシやアサザが植栽されています。それらは焼かれることも刈り出されることもなく、有機汚濁として湖底環境を破壊していきます。こういう事態をもたらした保全生態学者には、「保全」とはどういうことなのか、事実をもう少し見てから物を言ってほしいと思います。生態学とは、本来、野外での事実から始まる学問ではなかったのでしょうか。