科学者の責任の取り方〜アサザ植栽事業を例に

自然科学の分野で研究を職業にしていたら、通常は査読付き論文が業績になります。論文として発表した内容が、後に間違っていたことが指摘されても、そうやって科学は進歩していくものですから、責任を取る必要はありません(データ改竄など、不正行為を除く)。
問題は、こういった査読付き論文ではなく、科学的に検証されていないのに、著名な研究者が一般書で間違った内容を浸透させてしまった場合です。その典型が、元生態学会長が一般書に記した「アサザは水質浄化作用がある」「護岸工事で霞ヶ浦アサザが減った」との主張です。
この研究室は日本でアサザの種子生産ができるのは霞ヶ浦だけとの論文も出していますが、当該論文では霞ヶ浦だけサンプル数が多く、他の地域では3分の1近くが1サンプルしか取っていません。アサザは花型が異なる2タイプがないと種子生産できないのですから、1サンプルしか取らずに、「霞ヶ浦以外では2タイプないから種子生産できるのは霞ヶ浦だけ」と主張することはできません。従ってこの論文は、私のようなシロウトでも一目で問題があることが分かる内容です。そしてこのように論文になっていれば、こちらも上記のような不適切な部分を論文で指摘することで、アサザに対する理解がより正確になります。
一般書となると、そうはいきません。このブログで何度も指摘してきたように、波が高い霞ヶ浦には、もともとアサザは繁茂していませんでした。富栄養化の進行や護岸工事以前に確実にあったことが確認できたのは、今のところ1カ所だけです。1947年撮影の写真からは、アサザだけでなく浮葉植物群落自体が、波の強い霞ヶ浦にはほとんど無かったことが分かります。戦前から霞ヶ浦に住んでいる方々も、アサザなんて霞ヶ浦に無かったと証言しています(水路や川に生えていたとのことです。写真も残っています)。湖内でアサザの分布が拡大したのは護岸工事後、それも霞ヶ浦のアオコ被害が最大だった1980年前後なのです。その後アサザが減少したのは、アオコの減少とともにアサザの異常繁茂が縮小したという、喜ばしいことと考えるべきです。
少なくとも「アサザが減ったことが霞ヶ浦の水質浄化作用を奪った」との、彼女が一般書で広めた考えは、科学的に荒唐無稽です。元生態学会長であり、多数の著書により社会に対する影響力が大きいことを鑑みれば、科学者として何らかの責任を取るべきではないでしょうか。

よみがえれアサザ咲く水辺―霞ケ浦からの挑戦

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