宍道湖のシジミ、昨年度に続き今年度も順調に増えています。6月時点での資源量推計値は前年同期の約3倍の約5万トンで、6月の資源量としては統計を取り始めた1997年以降で4番目に多い値となりました(山陰中央新報8月5日記事)。
しかし漁師さんにとっては、まだまだ厳しい状況が続いているようです。宍道湖産シジミが品薄になっている間に、関東では青森・茨城など他産地のシジミが参入し、宍道湖産より安い値段で供給されたことから、消費者の宍道湖シジミ離れが進んでしまったようです。たとえば筑波西武の鮮魚売り場では、宍道湖産シジミが100g178円で、涸沼産シジミが100g138円で並べられていました(2014年8月11日時点)。そのうえ宍道湖産は小粒でツヤが悪く、はげたような白い部分が目立つのに対し、涸沼産は大粒でツヤツヤして、まったくはげたところがありません。以前は宍道湖産しか並んでいなかったのですが、並べられると一目瞭然になってしまっています。
一度生産不振になると、こういった、予想していなかったことがいろいろ起こります。ですので、シジミ漁が安定した産業になるためには、供給も安定していることが必須だと思います。そして、シジミは実は各地の汽水域で取れますから、各地の地元産に伍して戦えるだけの付加価値が必要となります。たとえば宍道湖では鮒を刺身で食べる郷土料理がありますが、これは宍道湖に塩分があるからできることであって、淡水湖沼の鮒ではあまりない食べ方です。同じ食材でも、その湖固有の付加価値があるはずで、そういった面からの取り組みも有効でしょう(既に水技センターの方が考えておられるようです)。
安定供給にしても付加価値にしても、これまでの漁師さん達の経験知だけでは解決できなかったことです。たとえば昨年度に高塩分になってアオコが珪藻に交代するまでは、一部の漁師さん達はダムによるシリカ欠損でシリカが減ってアオコになったのだと主張されていました。これに対して研究者は、シリカ欠損が起こるハズがない、塩分が原因だと主張していました。
宍道湖のシジミを守っていくためには、科学的な根拠に基づいた推測と対策が不可欠です。そのためには、漁師さん達が何か対策を考えついたときには、それが本当にシジミ漁の持続性につながるのか、事前に科学者と相談することが必要だと思います。宍道湖ではかつて、シジミを含む魚介類が増えるとのふれこみで、ヨシ植栽事業が展開されていました。一部の漁師さん達も、シジミが増えるならと、積極的に参加していたと聞きます。科学的にはそんなことがあるはずはなかったのに、です。
もちろん、シリカ欠損にしてもヨシ植栽にしても、間違ったことを主張していた研究者もいました。それは特定の個人が、自身の狭い了見でしか物事を見なかったからです。湖は流動、生物の代謝、土砂供給だけを見ても水理、生物、土木など様々な学問分野で扱う事象が起こる場です。特定の専門家が自身の専門分野の観点からだけで物事を判断すると、間違った結果を導く可能性が高いのです。
幸い、宍道湖では島根県が宍道湖自然再生協議会という場を設け、国土交通省が河川生態研究という研究助成を行っていて、県内外の様々な専門分野の研究者が、宍道湖で生じている事象を総合的に調査・研究し、どういう状態が望ましく、それを持続するにはどうすればよいのか検討しています。漁師さん達には、担当機関に五月雨的に事業を陳情してきたこれまでのやり方を今後も継続するのがよいのか、上記の研究者集団と連携して、科学的な根拠に基づいた長期的展望を持った対策をみなで作り上げていくのか、選択を迫られている時期にあるのではないかと思われます。