私は自分を独創的な科学者だと思っています。懸濁物食二枚貝が水質浄化していること、サンゴ礁では窒素固定による新生産が行われていること、除草剤使用が水草→植物プランクトンへのレジームシフトの大きな原因であることなど、従来説を全く覆したのは私の筆頭論文ですし、アミノ酸が脳脊髄液減少症の症状低減作用があることを見つけたのも私です。
今は専攻の妨害により学生がいない陸水研ですが、学生にはいつも「ナンバーワンではなくオンリーワンの修論を書け」と言ってきました。つまり人と競争するのではなく、競争にならないくらい独創的な研究をせよ、ということです。そのためにM1には特別講座を開いてきたのですが、また陸水研を再開できたらM1講座で、本書を読むという宿題を課したいと思いました。かなりの部分がM1講座で話したことと重なります。
本書の特徴は、各章の主題を先人の言葉で紹介し、次にその先人のプロフィールを数ページで紹介してから本題に入ることです。例えば第3章の主題は「いかに個を磨くか」で、冒頭にチョムスキーの次の言葉が紹介されています。
「もしあなたが孤立して、世の中の誰とも全く違っているとしたら、自分の気が変になったか、どうかしたに違いないと思い始めるでしょう。あなたが他の人々と何か違ったことを言っているという事実に負けないためには、強い自我が必要です。」
この言葉が示唆するのは、例えば、群れになって客観的事実に反することを強要する自称「研究者」集団に妥協することが、独創的な研究を放棄するに等しいと言うことでしょう。
また第4章「研究のセンス」には私が大好きな言葉である、朝永振一郎博士の「科学の花」が紹介されています。そしてプロフィールの最後は下記でした。これを読んでますます、朝永ファンになりました。
「朝永は東京教育大学の学長を務めていたときも、しばしば寄席に通われたそうである。ノーベル物理学賞の授与が決定して、朝永は祝い酒で酩酊して風呂場で転んで肋骨を折ってしまい、その年のストックホルムでの授賞式に行けなかった。そこでお弟子さんに一言『ノーベル賞を貰うのは骨が折れる。』」
科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか (中公新書 (1843))
- 作者: 酒井邦嘉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/04/01
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