霞ヶ浦でアサザが減った原因は水位操作ではない

霞ヶ浦アサザ群落については、国交省による水位操作が減少の原因と発表した研究者がいます。しかし水位操作が行われ続けている近年、アサザは植栽地では衰退しているものの、船溜まりなどで繁茂面積を増やしています。水位操作の影響は植栽地と非植栽地で異なるわけではありませんから、アサザ衰退の原因は水位操作がメインではありません。かつ、その研究者は「水位操作によって緩傾斜の湖岸が失われたので、植栽地では緩傾斜を造成し、消波施設を作った」と説明しています。その植栽地でアサザがことごとく衰退したことからも、衰退原因は水位操作ではなかったことが分かります。
私の学生が国内のある学会で、霞ヶ浦ではアサザが植栽地以外で分布を拡大していることをポスター発表しました。遠慮して「水位操作が原因というのは誤り」とまでは指摘しなかったのですが、水位操作原因説を唱えている研究者がやって来て「こんなの科学ではない」と批判したそうです。
科学でないのは、あなたの方でしょう。
どうも国内では色眼鏡で見られるので、国際学会でどちらが非科学的なのか意見を聞こうと、2017年2月にハワイで開催されるASLOで下記を発表することにしました。頂いた意見を参考に、その研究者が論文を掲載した国際誌も視野に入れて、霞ヶ浦アサザ植栽事業を強行させてしまった擬似科学的な主張(上記に加え、アサザは国内では霞ヶ浦でしか種子生産しないと短略的に決めつけたことなどなど)を批判しようと思います。

(ASLOの要旨意訳)
浅い湖沼では沈水植物が優占する透明な状態と、植物プランクトンが優占する状態のどちらかになるとされている(alternative stable state theory)。さらに温帯から熱帯の湖沼では、植物プランクトンの代わりに浮葉植物が優占することもある(Scheffer and van Nes 2007)。実際、著しく富栄養化した中国の浅い大湖沼である太湖では、アサザが急激に繁茂範囲を拡大している。日本でも、日本で2番目に大きい湖沼である霞ヶ浦で、富栄養化が急激に進んだときに、アサザを含む浮葉植物の繁茂面積が増加した。その後、下水道の整備とともに有機汚濁が減少し、アサザを含む浮葉植物も減少した。しかしその頃に人工的な水位操作を行うようになったため、日本の一部の生態学者は、アサザの減少は水位操作が原因であると推測し、自然再生事業としてNPOや河川管理者とともにアサザの植栽を始めた。大湖沼では風波が大きく植栽しても流出するため、この再生事業では消波施設も作られた。その結果、アサザを植栽した消波施設の内側は細粒化と有機汚濁化が進行し、新たに植栽してもアサザが定着しなくなった。さらに、波あたりの弱いところで繁茂する外来種が容易に侵入しやすくなった。大湖沼でrestorationを行う際には、そもそも大湖沼では風波が大きく、水際に浮葉植物や抽水植物が繁茂しにくいことを認識し、それらが存在しない理由を人為的な撹乱と決めつけないことが重要である。