今日は仕事始めで、宍道湖関係プロジェクトの継続申請書を作っていました。宍道湖ではこのプロジェクトの成果もいれて、第七期はアオコが異常増殖せず、シジミが植物プランクトンを食べ、それが漁獲されることで有機物が蓄積することのない湖沼にしたいと考えていました。私が学位論文以来めざしてきた状態です。
日本のいくつかの水域について、栄養塩の規制により「貧栄養化」して漁獲が減ったとする指摘があります。だからもう栄養塩削減はしないでよいとなれば、行政にとってはありがたい話かもしれません。しかし少なくとも宍道湖はそうではありません。宍道湖では長年の削減努力にもかかわらず、栄養塩負荷は増えています。その主な起源は越境大気であることが明らかになりつつあります。流入河川である斐伊川では、窒素だけでなくリンも越境大気により増えています。特に近年は湖水N/Pの減少と温暖化のためか、アオコが1980年代よりも大発生するようになりました。
宍道湖では洪水があった年とアオコが発生した年にCODが増えます。洪水については斐伊川放水路ができたので、一定規模の洪水時には宍道湖ではなく日本海に負荷がでていきます。一方、アオコはシジミが食べないので、シジミを頼りにすることはできません。アオコではなくシジミが食べられる植物プランクトンが生えるのであれば、栄養塩を削減しなくてもCODは減ります。
アオコは淡水性ですが、シジミが好んで食べる珪藻は汽水性です。ですので塩分を高くすれば、珪藻が発生しやすい状態になります。
ここで問題は、塩分が高いと成層しやすくなり、貧酸素化が進んでリンの内部負荷が増える可能性があることです。2013年、宍道湖の塩分は通常の2倍になり、珪藻が増えてシジミが増えました。このときは風が強い日が多く、成層は風により解消しました。宍道湖は日本海側にあるので天文潮は大きくなく、塩分が入るのは日本海に低気圧が進んで海水面が上がったときになります。この低気圧に向かって強めの風が吹いたために、2013年は高塩分でも成層しなかったと考えられます。
湖沼計画のシミュレーションは、このような気象要素は考慮されません。次の5年間に低気圧がどこに居座るかなど、予測できないからです。一方で気象要素が水質に影響している可能性は、印旛沼でも指摘されています。印旛沼のCODは、第六期の湖沼計画を立てたときに「何も対策をしなかった場合」で想定したよりも高くなってしまいました。その原因は日照時間が増えたためではないかされています(岩山・小倉、用水と廃水、58、891−898)。
私は、湖沼計画を立てる上では、シミュレーションはあまり役に立たないと考えています。湖沼で水質を左右している要因のうち、モデルを作る際に定式化できていないものは入っていないからです。だからまずやるべきことは、その湖沼の水質を決めているのは何か、そのメカニズムを明らかにすることです。その上で重要なメカニズムが分かったら、それを何とかシミュレーションに組み込むこと、そして組み込めないこと(例えば気象など)は、想定範囲を変えて動かしてみることで、これまでよりは現実に近い予測ができるようになるのではないかと考えています。
残念ながら島根県の湖沼計画関係者にはこの考え方が理解されていないようで、七期に向けてのシミュレーションは私が思っていたようには進まないようです。
八期を検討する頃には理解されていてほしいところです。