ロールモデル

1930年生まれの高校生物部の恩師から、英語文献に関する問い合わせメールがありました。86歳になってもまだ研究を続けておられるのは、本当にすごいと思います。ご専門は後鰓類ですが、植物にもとても造詣が深い先生でした。部活の個人テーマとしてお化けカボチャの開発に取り組んだのは、先生の植物好きな一面の影響だったと思います。
私が水圏の環境問題の解決を志すようになったのは、入試の面接で「理科なら生物が得意です」と言ったら先生から質問されることになり、その際の受け答えから生物部に一本釣りされ、高校生活=部活くらい、先生と部室で過ごす時間が長かったからだと思います。本当にいろんなことを教えていただきました。
部室以外でも、部活の合宿で先生から言われたことは、私にとって保全とはどういうことかの基本理念になっています。
「もし君が珍しいと思った生物を見つけたら、すぐに採集して標本にしなさい。もしそれが絶滅しそうなほど数が減っていたのだとしたら、君が採らなくてもいずれ絶滅する。だから君が採らなければ、その生き物は存在したことさえ知られずに消えていくことになる。生物は環境が適していれば絶滅することはない。」
日本の著名な保全生態学者の一部と私とで物の見方が全く異なるのは、若い頃に分類学の基礎を習い、様々な場(山では陸産貝類調査の合宿、和歌山の海岸では磯採集合宿など)、様々な生物群を見つめる機会があったかどうかの違いではないかと思います。
そういえば先生は大学に移るよう何度かお誘いがあったのですが、断っていました。
「研究は高校にいてもできるから。むしろ君たちくらいの世代に伝える方が、僕は大切だと思うんだ。」
大阪の先生がどうして標準語?と思われるかもしれませんが、先生は完璧な標準語を話していました。学芸大付属小→武蔵を卒業された東京生まれ、東京育ちで、東大の私の知り合いの先生方の多くが同期だったりしました。
西條先生に続き、多毛類の師だった今島先生も昨年亡くなった今、先生には100歳過ぎてもお元気で研究に励んでいただいて、いつまでも私の目標であり続けてほしいと思います。