助成金申請レース後半戦

科研費と環境推進費の申請が完了し、今年の申請レースも残るは河川財団の2本と後半戦に入りました。うち1本は沈水植物の根こそぎ除去法の開発で出します。これが採択されないと、日本は湖沼だけでなく川も沈水植物におおわれて、ますます魚が減ってしまうかもしれません。
特に川については、いまだかつてない大繁茂になる水域が年々続出するはずです。なぜか。戦後すぐくらいまでの日本の河川は、今ほど治水対策が進んでいなくて、頻繁に土砂移動が起こり、水草も根こそぎ状態になっていました。戦後に治水対策が進んでことで土砂が移動しなくなり、礫河原は樹林に覆われました。しかし水草が同時に繁茂しなかったのは、水田で大量に除草剤が使われていたからです。水田排水が河川に入り、水草を抑制してきたのです。
1980年代、除草剤CNPなどに不純物として含まれるダイオキシンが、新潟県で癌が多い原因であることが分かったことなどから、除草剤成分の見直しや使用量の削減が始まりました。琵琶湖を抱える滋賀県では、いち早く農薬の空中散布を禁止しました。その影響もあって最初に水草の大繁茂が始まったのが琵琶湖南湖です。そして京都の嵐山地区でも、河川で沈水植物が大量繁茂するようになりました。
さらに2006年に食品の残留農薬規制がポジティブリスト制度になり、すべての農薬が原則、0.01ppm以上あってはいけなくなりました。これに伴う集水域での農薬使用料減少により、宍道湖で沈水植物の繁茂が始まりました。同じ頃にヒシが増えている水域もあります。手賀沼では1950年代に除草剤使用が始まると、まずシャジクモ類が消えました。次に沈水植物が消え、最後にヒシが消えました。このことからヒシが一番除草剤に強かった可能性があります。なので除草剤使用料が減ったら最初に侵入するのがヒシで、次が沈水植物、最後がシャジクモと思われます。現在ヒシの大繁茂が起こっている湖沼は、やがて沈水植物の大繁茂が始まる可能性があります。そして今年の夏、ヒシ繁茂で困っていた諏訪湖では、とうとう沈水植物のクロモが突発的に繁茂始めました。流れがある河川では浮葉植物は侵入できないので、いきなり沈水植物の繁茂が始まると予測されます。
要約すると、日本の河川はもともと洪水が多く、沈水植物が一掃されやすい環境だったのですが、治水事業によって沈水植物が大繁茂しやすい流況になりました。それを抑制していた除草剤使用が減るにつれて、史上初めて、河川での大繁茂が始まるのです。
これまで日本人が経験したことがないことが始まるのですから、頭を柔らかくして先見にとらわれず、プラクティカルに徹した対策が必要になってきます。この分野でそういうことが一番得意なのが私だろうと思っています。何らかの専門分野にあえて深くコミットせず、現場主義に徹してきましたから。