足かけ6年の宍道湖プロジェクトの最終年度も、残りわずか。
37年間に及ぶ宍道湖研究も今年度で最後かもしれないので、地元への貢献も兼ねて、宍道湖産動物の標本アーカイブを作成しています。
最大の収穫は、宍道湖・中海干拓淡水化事業が始まる前の魚類標本の所在と内容が明らかになったこと。標本を残してくださっていたのは京大名誉教授の川那部先生です。今の日本では、川那部先生のお弟子さん以外の生態学者の大部分が標本を残さないのですが、流行に乗った論文を数十本書くより標本を残す方が、生態系の保全にはるかに役立つと私は思っています。今回明らかになった内容は地元の博物館を通じて地元の方々に情報が周知されるようお願いしています。今後これによりどのような成果がでてくるか、とても楽しみです。
魚については大きな成果があったのですが、底生動物は水産試験場さえシジミ標本を残していないことが分かりました。今の場所に移転する際に全て廃棄してしまったそうです。持っているのはどうやら私だけ。いわんや宍道湖の多毛類標本は、私が1980年代に同定したものしか世界に存在しないことが判明しました。さてどこに保管しているかと探したところ、新種記載のために国立科学博物館分館に預けたままになっていたことが分かりました。D論以降は分類から物質循環研究に転向し、新種記載もスケッチまでで頓挫。標本を保管してくださっていた今島実先生も一昨年亡くなっているので、国立科学博物館分館に標本がどうなっているか調べていただいたところ、私が預けたままの状態で保管されていました。分館では多毛類研究を継ぐ方がおらず、このまま分館に置いていても標本として登録されることはないだろうとのことなので、産地である宍道湖にある博物館に引き取っていただくことになりました。
私は他にも1990年代の水鳥を冷凍で保管しています。堆積物試料も冷凍状態であります。変わったところではNotomastus属イトゴカイの糞の標本があります。この多毛類が新種記載をさぼっている種なのですが、かつてはこの多毛類が湖盆部の至る所にいて、粒度分析するとその糞の大きさにピークが出てきました。昨年ベントス調査をしたところ、この多毛類が激減していました。オオユスリカ幼虫が絶滅していたので、おそらくネオニコチノイド殺虫剤の影響と思われます。ペレットが集積するという宍道湖固有の堆積環境も、今は見られません。こういった貴重な試料も、あと8年で現役引退するまでに、有効利用していただける方を探して引き継いでもらいたいと思っています。
下の写真は国立科学博物館分館の方から「もしかして、これのことですか?」と送っていただいた、私の多毛類標本です。