看取り犬 文福の奇跡

犬だけでなく、看取りする猫の話も含め15話。飼い主は特別養護老人ホームの入所者、そして犬や猫はいずれも老齢だったり保護動物だったりします。死期間近な高齢者が、そんな、ともすると社会からお荷物扱いされる動物といることで、穏やかで幸せな時間を過ごしています。コロナによる引きこもり生活で、家庭内暴力が増えていると報道されています。「言葉が話せない人間は生きる資格が無い」と障害者を殺害した例がありますが、言葉が話せる家族どうしでも信頼関係が築けない一方で、言葉以外のコミュニケーションが人を支える事実がここにあります。
犬や猫と暮らすことで、認知症の症状が劇的に改善された例も紹介されています。私の父も11年前に認知症を発症しましたが、まだ自宅で暮らせる能力を維持しています。8歳になる柴犬のクリとの、散歩やコミュニケーション効果だろうと思います。
犬にはセラピー効果があると言われてましたが、クリが我が家に来るまで、私自身はそれほど期待していませんでした。娘が父をペットショップに連れ出したところ、父がクリ(既に生後4ヶ月の売れ残り)を見て、「この犬は賢い!」と気に入ってつれてきたものです。どうもクリは自分を見込んでくれたのは父と理解しているらしく、父があまり散歩に行かなくなった今でもまだ、私より父の方が好きなようです。そういったところも犬の能力なんだろうと思います(だから忠犬という言葉があるのでしょう)。
10歳の頃、ブラジルへの赴任が決まった叔父一家が、当時は海外まで連れて行けなかった4歳の雑種犬の世話を我が家に依頼しました。その時に2年弱犬を飼いましたが、フィラリアであっけなく死にました。散歩は主に私の仕事だったので、あまりにあっけなく死んだのがショックで、以来、自ら犬を飼う気にはなれませんでした。クリと暮らすことになって、今ではフィラリアは薬で抑えられ、犬まで認知症が問題になるほど長生きできることが分かって、安心してクリとの生活を楽しんでいます。たぶん私も本書の登場人物のように、老後は大好きな犬と、そして庭の植物、トカゲや蛙、鳥などの小動物達と楽しく過ごすのだろうと思います。

看取り犬・文福の奇跡

看取り犬・文福の奇跡