「食の単一化」の根拠は?

録画していた「NHKヒューマンエイジ 人間の時代 第3集・食の欲望 80億人の未来は」を見ました。

冒頭はセレブのニッチなグルメの紹介。次にコンビニに並ぶジュースや肉が同じ成分との謎かけをして、ニューヨーク・マンハッタンの映像が出てきます。その路上に住むアリがズームされ、「アリは人間の食を映す鏡なのです。」とノースカロライナ州立大学のロブ・ダン(Rob Dunn)氏が発言。次にマンハッタンのアリの炭素同位体比がトウモロコシ由来の食物を食べている結果となったとグラフを見せて紹介、「人間が捨てたゴミを食べていたとしても、本来そこには多様な食べ物があったはずです。ところがこの100年で人間は限られた作物に頼るようになりました。アリに起きた変化はその証拠なんです。」
安定同位体比でヒトが何を食べているかを言うのでしたらヒトそのもののサンプルを使うべきで、アリを使った研究では不正確です。ヒトが何を食べているかは毛髪の同位体比で分かるので、ここ100年で食べ物の原材料に大きな変化があったかは、過去からの毛髪サンプルを比較して議論するのが筋です。

このロブ・ダン氏がトンデモ学者なのかNHKが話を盛ったのかどっちだろうと思って「Rob Dunn NYNY ant」で検索したら、番組で出てきたグラフと同じグラフが掲載された下記論文が出てきました。

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2014.2608

この論文では「道路に生息している蟻はヒトのファーストフードに依存していた」と現在の状況を記載しているだけでした。
論文は2015年発行ですが、下記のロブ・ダン氏のホームページにあるその後の業績を見ても、「この100年で人間は限られた作物に頼るようになりました。アリに起きた変化はその証拠」を議論している論文はありませんでした。

Rob Dunn - Citation Index - NCSU Libraries

この番組では何度も「食の単一化」を主張していますが、地球規模でヒトの栄養源が数種類の穀物起源に急激に集中するようになったことを直接示すデータは、提示されていませんでした。どのような論文を採用したのかの説明が公開されない農薬登録再評価と似ていて、不愉快になりました。

そう言えばNHKは、ネオニコチノイド系殺虫剤問題は10年以上前にミツバチのCCDを取り上げたくらいです。化学合成農薬は第二次世界大戦以降に急速に使用拡大したもので、「ヒューマンエイジ」の趣旨からは外せないテーマのはずですが、おそらく取り上げていないでしょう。