国の政策決定の過程で、国民から広く意見を募る「パブリックコメント」についてNHKが下記のように報道していました。
記事の中で「専門家」が「パブリックコメントは、広く国民から意見を聞くための制度で、その趣旨が理解されれば、大量投稿することにはならないのではないか」とコメントしています。
より多くの人が支持する意見が政策に反映するだろうと想像するのは、極めて一般的だと思います。ところがパブリックコメントは「そうではない」と言っているのです。
実は過去にも1万件を超えるパブリックコメントが寄せられた事例がありました。厚労省が2021年に水道水質基準の見直しを行った際のパブリックコメントです。
厚労省は寄せられたコメントから「代表的な意見」として「水道水に農薬を混入しないでほしい。」をあげていました。水道水に農薬が混入してしまう現状が不安だ、という意味と捉えるのが常識でしょう。ところが厚労省はこのコメントに対して、
「水道水を作る際に農薬を入れることはありません。水質管理目標設定項目の農薬類は、水道水のもととなる水中に存在していた農薬が、水道水中に残存している場合を考慮して設定しています。今回の改正案は、水道水に農薬を添加するためのものではありません」と回答していたのです。
これを見ても「専門家」がコメントしているように、パブリックコメントは「広く国民から意見を聞いた」とのアリバイ作りに導入しただけで、その意見を反映させるなんて全く想定していないことが分かります。
SNSで「炎上」する以前から国民が省庁の対応を期待して1万件以上の意見を述べてきたのですから、あれから約3年経った今ではもっと増えて当り前です。対応に当たる職員も、上記のような詭弁をいちいち考えなくてはならないのですから、さぞかし疲弊することでしょう。
この厚労省の詭弁で分かるように、国の専門家による審議会が承認したから安全ということは、決してありません。たとえばEUでは、「様々な農薬が混入する可能性がある中、明確な安全基準を出すことは不可能」との考え方から、あらゆる農薬の飲用水への混入基準を100ng/Lとしています。日本では活性炭処理をしていない水道水から広く検出されるジノテフランというネオニコチノイド系殺虫剤の規制が600000ng/Lです。
パブリックコメントは、国民が唯一意見を直接述べることができるシステムです。その件数が増えたことが悪いかのような印象を与える報道をして、パブリックコメントの多数意見が政策に反映されないことを問題視しないNHKもNHKですが、国民もパブリックコメントが締めきられた後まできちんとフォローして、それぞれの声が反映される仕組み作りを国に求めていくべきではないかと思います。