論文博士

島根県の研究所で、私が学部学生の頃から一貫して宍道湖・中海の水質観測を続けて来られた方が、このたび論文博士で学位を取得されました。「県職員は研究などするものではない」との雰囲気さえある状況で30年近く頑張ってこられた方なので、本当に嬉しいです。
水環境テーマでの学位論文として、博士課程の3年で書ける内容はたいしたものにはなりにくいと思います。私の場合は夏の洪水とか干ばつとかあって5年かかりましたが、それでもスナップショットしか知り得ませんでした。そのスナップショットがどういう位置にあるかを把握できたのは、毎月毎年の水質観測データがあったからで、さらに幸いなことに、その観測をしている研究所に夏の1ヶ月強お世話になって仕事できたので、自分の立ち位置が把握できたのだと思います。
こういう方々が業務で得られた情報を学位論文としてまとめて学術的に貢献してくださるのは、非常にありがたいことです。
うちの専攻には「課程で3年勉強してもらうことに比べて、論文博士なんて軽すぎます」なんて言い方される教員もいますが、環境学にいるのに環境業務を知らなさ過ぎの、とんでもない勘違いです(論文博士をとられたその知人も憤慨していました)。その一方でこの専攻には、修士に1年未満しか在籍していなかったのに、この専攻で論文博士をとっている方もおられます。ですので、一定の業績があれば出さない理由はないと思われます。
大学教授だからこそできること。そのひとつが、学部や修士をでて環境観測の仕事についた方々が、その経験を生かして論文博士を目指してくださるよう働きかけることじゃないかと思っています。それにより観測業務の質が学術的に高まり、得てして埋もれてしまっている観測データが学術雑誌で得られるようになるという、どこをとってもよい効果だけが期待されますから。