陸水学雑誌のJ-STAGEに故・花里孝幸さんの追悼文集が掲載されています。
私は「日本の陸水の生態学大物にロクな研究者はいない」とよく書きますが、花里さんは例外でした。
まず、多くの日本の生態学者は化学物質が生態系に与える影響を無視しますが(たとえば下記記事)、花里さんは早くから農薬が生態系に与える影響を深刻に捉えていました。
上記J-STAGEにある「花里先生の略歴と研究業績」91ページ右段にその成果が紹介されています。花里さんはこういったことを話せる、陸水学会では数少ない方でした。
そして「たとえ自然再生が目的であっても、その実行は慎重に行うべき」という点でも一致していました。追悼文集「信州大学での花里孝幸先生との思い出」の97ページ右段下に「生態系保全への行動は大切。けれど、その行動が引き起こす可能性のある事象を、しっかり考えないといけない。」とあります。
まさにこの点が今重要!と2012年に開催された日本陸水学会名古屋大会で、花里さんと共同で課題講演「陸水学からみた環境保全・再生活動の問題点」を開催しました。この大会期間中、名古屋大学博物館で企画展示「西條八束と日本陸水学の流れ」が開催されたのは、非常に意味深です。
花里さんは東大地理出身の吉村信吉先生・西條八束先生が示してこられた日本の陸水学の在るべき方向を継承されていた、数少ない生物系の会員でした。西條先生は生前、吉村信吉先生が所蔵していた資料を「陸水学会を継ぐのは花里さん」と見越して、花里さんに送っていました。私が東大に転職したときにそのことを話され、残りは私に送るので、将来二人で話し合って資料が後生に残るようにしてほしいと言われました。
あまり知られていませんが、花里さんと私は仲良しでした。「山室さんならハスのいい写真持ってると思うんだけど、何か使わせてくれない?」「いいよ~、これなんかどう?」と送った写真が花里さんの著書のカラーページで使われたりしました。花里さんも私もしゃべりまくるタイプなので、主に電話でコミュニケーションをとっていました。今となっては記録に残っていないのが残念です。
花里さんは合理的に物事を考える方なので、欧米の研究者と同様に議論ができる、数少ない日本人陸水生態学者でした(かつ、花里さんの発想テンポと私のテンポはかなり近くて、話していて痛快でした)。
私は宍道湖と手賀沼で手一杯、霞ヶ浦は相変わらずアホな生態学者に牛耳られてるけど、諏訪湖は花里さんがいるから安心と思っていました。なのに2017年度から長野県のアセス委員とか、諏訪湖湖沼計画に関する委員とかの依頼が来るようになりました。その討議を通じて「浮葉植物のヒシが繁茂することで水質浄化する」「貧栄養化」といった、ちょっと考えられないことを花里さんが主張していたことを知りました。「それ、○○という点でおかしいんじゃない?」とメールしたのですが、返信はありませんでした。花里さんなら「おかしい」と言われたら「おかしくない」理由を説明するハズだ、どうしたんだろう?と思っていたところへ、実はすでに病いにおかされていたことを知りました。
花里さんは今の陸水学会を天国からみて、どう思っているのでしょう。