今年の修論

修士の研究指導について、いろいろ考え方があると思います。
私は基本的に、修士の2年間で自ら課題を発掘し、仮説とそれを検証する方法を立案し、実際に検証するという過程を通じて、社会に出てから直面する問題にも対応できる能力を養ってもらいたいと思っています。
その為、学生さん自身が最も関心を持っていることから、自主的にテーマを決めてもらいます。中には,それはいくら何でも無理だろうという方法を提案する学生もいます。あまりに新奇すぎて修士の2年ではできそうにないと、途中で断念した学生もいます。それでもチャレンジできるように、いざとなったら○○で○○という代替も、この4年間で用意できるようになりました。
今年のM2のY君は、魚の食性で修論を書きたいという一点だけは、絶対に譲ってくれませんでした。対象水域のあらゆる有機物が餌である可能性がある中で、ゼロから始めて2年で書くのは不可能との説得は失敗に終わり、では手賀沼のハス帯の魚を調べてみる?ということになりました。この時点でオリジナルな現象が見つからないようなら、秋からY君は○○で○○ね、と思っていました。
結果、現場を見て「これが一番多いから、これが餌かも」と思って測った羽虫が、酸欠のためにベントスが非常に少ないハス帯のモツゴの餌候補として有力であることが、安定同位体比分析の結果から分かりました。10年以上前にある国の湖の岸で採った魚の消化管内容物が、鱗粉だけだったことがありました(その湖では動物プランクトンが全然取れず、農薬の影響が疑われました)。日本での魚の虫依存は、私が関与した限りでは初めての現象で、これはY君にやられたなぁと思いました。調査結果を受けて仮説を立てたY君は、就活終了後の夏に再度現場調査をし、仮説と多少異なる結果になりましたが、筋の通った修論になりました。
陸水研の今後の課題は、修士2年で就職する学生さん達の修論を、どうやって国際誌に出していくかです。なるべく本人にと思うのですが、就職してしまうとちょっと無理かもと思うようになりました。修論提出から卒業までの間に何とかする方法を、考え出す必要があります。