霞ヶ浦は波が高く砂底が広がり、二枚貝が多かった湖です。琵琶湖(南湖)にしろ宍道湖にしろ、広くて浅い湖沼はそうなります。そんなところで、お花見ができる位のアサザ群落を恒常的に維持するのは不自然です。実際、アサザを保護すると称して波を弱める施設を設置したことで、泥や有機物がたまって湖岸環境が悪化しました。当のアサザも生えなくなりました。私がNPO法人アサザ基金について批判しているのは、その点です。
ところが「原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―」の著者である安富東大教授からすると、これが「『科学的』であるかのように見えるところもあるが、根本的に考えの筋が狂っている。」ことなのだそうです。
下記が安富教授による批判記事のリンクです。
http://anmintei.blog.fc2.com/blog-entry-937.html
安富教授は「アサザ基金の目的が、人々と霞ヶ浦との関係の回復であり、それを通じて生態系を豊かにしようとしている、ということが、(山室には)どうしても理解できないようなのである。」と書いています。
なぜ私には理解できなかったか。安富教授によると、アサザプロジェクトの発想にはアサザを守るという考えがないそうです。アサザ基金が目指しているのは産業や教育といった地域に広がる社会システムに環境保全機能を組み込むことで、沈水植物ではなくアサザを看板にするのは、沈水植物は見えないからだと思う、と書かれていました。現実にはアサザ植栽事業によって環境悪化が起こっているのですから、理解のしようがありません。
下記の文章から、安富教授は水環境や生態系に関する知識が貧弱で、私が指摘していることの問題点が理解できないのではないかと思います。
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たとえば、アサザ基金が、アサザを霞ヶ浦を埋め尽くすほどに増やして、生態系を破壊しようとしている、と難癖をつけるのである。しかし、HPにも出ているのだが、アサザ基金はそういうことを目指したことは一度もない。そのことを指摘すると、ブログに、
http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20101014
という写真を出すのである。豊岡の人が、「空一面にコウノトリが飛びますように」という看板を描いたら、「そんなことをしたら生態系は無茶苦茶になるではないか!」と、推進団体に怒鳴りこむ学者がいたら、だれだって頭がおかしい、と思うであろう。実際のところ、霞ヶ浦のアサザは、今も絶滅しかかっている。
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冒頭に述べたように、霞ヶ浦のアサザ植栽事業をしているところは、事業以前は二枚貝が生息していた砂底で、消波施設を作ってアサザを植えることでヘドロ化が進みました。アサザもそのような場所で長期間群落を維持することはできません。なのに子供にアサザを植えさせ、それが自然再生であるかのように宣伝して、子供達に間違った趣旨の看板をいまだに立てさせていることを指摘したのが上記の記事です。かつてコウノトリが人と共生していた豊岡と比較するのはナンセンスです。
「霞ヶ浦のアサザは、今も絶滅しかかっている。」については、今年の7月23日記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20120723)、7月24日記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20120724)と2010年11月16日記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20101116)、2010年11月17日記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20101117)をご覧ください。霞ヶ浦でアサザを再生すべきところは、アサザ基金が子供達に植栽させているところではないことが分かります。アサザを守るためには、霞ヶ浦流域では湖に流入するどの水路・川に生えていたのか、いつからなぜ無くなったのかを明らかにし、できる限りの対策を行うことが急務です(2010年記事にあるように、聞き取りをしているのはそのためです)。
これを妨げてきたのが、アサザ基金です。アサザ基金は、例えば私への攻撃のように、アサザの本来の生息場所は植栽事業をしているところではないと指摘する科学者に対して、誹謗中傷をネットで流したり、マスコミを操作したりなど、陰湿な妨害をしてきました。アサザを含め、霞ヶ浦の生態系を保全する活動を妨害してきたのがアサザ基金といっても過言はないでしょう。
安富教授のブログには、4月1日付記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20120401)で紹介した帝国書院中学地図帳に関する記述があります。本当にブログにある文章をアサザ基金から企業に送らせたのでしたら、私に対する名誉毀損にあたりますし、東大教員の品格を疑わせると思います。4月1日記事にある帝国書院中学地図帳をご覧になれば、何が問題なのか明らかだと思います。この問題は今秋の陸水学会や水環境学会で、どうすればこのような教育・環境運動の悪用を防ぐことができるか、議論されます。私個人が騒いでいるかのような書き方は、安富教授のこの分野に関する無知をさらけだすだけでしょう。
安富教授は「『科学的』であるかのように見えるところもあるが、根本的に考えの筋が狂っている。」と書いていますが、「科学的に間違っている」「非科学的」とは書いていません。そこが巧妙なところです。彼が言いたいのは「そもそもアサザ基金のような優秀な(と安富教授が信じている)NPOを批判するな」ということで、私の主張に対する科学的な反論は全くできないのです。だから私が間違っている根拠として、サンデー毎日の記事を引用するしかないのでしょう。そのサンデー毎日の記事はほとんど事実誤認です。この記事を用いて私を批判しているアサザ基金の文章に対して、7月22日記事(http://d.hatena.ne.jp/Limnology/20120722)、で間違いの一部を指摘しました。
安富教授のブログは、彼の言う東大話法の元祖は彼自身であることを、如実に示していました。