富栄養化湖沼の水ヨシは水質浄化機能がない可能性が高い

ヨシによって湖沼の水質を浄化するとよく言われますが、もしも水質浄化が水中での栄養塩の減少、もしくは有機物の減少を指すのでしたら、原理的にそれはあり得ません。なぜならヨシが栄養塩を吸収するのは堆積物からですし、空中の二酸化炭素を使って光合成を行い、枯死体は分解されて湖沼に出て行きますから、かえって水質悪化をもたらします。
「ヨシそのものではなく、ヨシ帯が存在することで脱窒機能が働く」との説明もあります。しかし私が文献などで見る限り、ヨシが水質浄化する証拠とした実験は管路で行われており、硝酸が供給されていました。脱窒は窒素がアンモニアではなく硝酸でないと起こりませんので、河川のようなところで常時硝酸が根元に供給されるヨシ帯なら、脱窒によって窒素が除去されている可能性があります。
それでは湖岸の水際にヨシ帯がある場合はどうでしょう。川と違って常に一方向に物を流す流れではなく、波が寄せては返しますので、湖岸の水際にあるヨシ群落には有機物が大量にたまっています。これらが分解されるときに貧酸素化し、硝酸ではなくアンモニアが供給されて、脱窒はあまり起こっていない可能性が高いと思われます。
たまたまアサザによる貧酸素化例を検索していたら、諏訪湖ではアサザよりもヨシ帯の方が貧酸素化するという報告が見つかりました(陸水学雑誌60巻3号405-407)。諏訪湖では霞ヶ浦のように消波工などで保全などしないでもアサザが繁茂していて、それはかつて私が霞ヶ浦で聞き取ったように、常に流れがある河口部に限定されています(琵琶湖でも、最近まで繁茂が確認されていたのは河口です)。そういうところは流れがあるので、アサザがあっても貧酸素化しにくいです。しかし、この論文で報告されたヨシ帯は流れがある河口ではなく、湖岸のヨシ帯だったのでしょう。アオコが群落内にたまり、それが分解して貧酸素化をもたらしたのだろうと書かれています。
宍道湖の水際にヨシを植える理由として、「かつてあった」は陸ヨシを水ヨシと混同していた可能性が高いこと、また「ヤマトシジミが増える」という理由はデータが存在しないことが分かりました。「水質浄化機能がある」についても、たとえあったとしても10年すれば陸地化して機能が無くなるのですが、植えて何年か水ヨシ状態にあるときでも、宍道湖の水ヨシ群落では脱窒が起こっていない可能性がとても高いと思います。来年度の確認事項にしたいと思います。