中国からのPM2.5の健康への悪影響が懸念されていますが、自然環境にも深刻な影響がでています。その一つが富栄養化。中国での工業化や車の増加に伴い窒素酸化物が増え、日本に硝酸の雨となって降ってくるのです。これが原因で九州北部のある流域では河川の全窒素濃度が増えていることが、Chiwa et al. Ecosystems (2012) 15: 230–241で報告されています。
島根県には保健環境科学研究所という県の研究機関があります。こういった県の環境研究所を、省略して「地環研」と呼んでいます。公害列島と呼ばれた70〜80年代、地方独自の条例を作るなど、公害の沈静化に尽力したのが地環研ですが、予算削減で真っ先に切られがちなのが環境分野で、多くの自治体で地環研は大幅に縮小しています。
そんな中で島根県保健環境科学研究所は、公共用水域の水質を自前で30年以上モニタリングしています。精度管理も徹底しているので、安心してデータを引用できます。
PM2.5問題もあり、窒素以外にもいろいろ降っているのではないかと、どこよりも信頼している島根県保健環境科学研究所所有の河川データを見せてもらったら、案の定でした。これは一刻も早く論文にして公表すべきだと思いました。
環境は月単位や年単位ではなく、10年、20年経ってようやくトレンドが見てくることが多いです。地元に研究者がいて長期的に観測を続けることは、そういったトレンドを抑える上で不可欠です。今や絶滅危惧種になっている地環研の保全対策は緊急を要すると思います。