近年、生態学者が「自然再生」事業に関わる例が増え、日本生態学会編「自然再生マニュアル」という本まででています。私はこういった風潮に違和感をもって来ました。
本書は、E.P.オダム著「生態学の基礎」の訳者である三島次郎先生のエッセイ集です。そこには、保全生態学者として著名な方々とはかなり異なる視点が、分かりやすく説かれていました。特定の分類群の生物だけみて「生態系」を議論しがちな保全生態学者と、生態系をはじめから、あらゆる生物、非生物からなるシステムとして捉え、それらの関係をエネルギーや物質の流れから読み取ろうとする考え方のどちらが本当に「生態系」を理解しているのか、そして真の自然再生につながるのか、本書を読むと明らかだと思います。
本書では除草剤などの化学物質がいかに生態系を破壊するか、繰り返し説かれています。しかし、著名な保全生態学者で化学物質を自然への攪乱の主要因にあげて、その対策を求めている例を私は知りません。本書では生き物を取ることを禁じ、観察することを強いる環境教育にも疑問を投げかけています。
50のトピックがそれぞれ4ページで完結していて、どこからでも読み始めることができます。各トピックの末尾には、街角で生態系を観察し、理解を深めるための質問が5つ用意されています。例えば
・相手をよく知ることは、相手を愛することにつながる。自宅近くでよくみかける植物や昆虫について、名前、分類、生活しなどについて詳しく調べてみよう。
・自然破壊運動になっていないか、身近な緑化運動を点検してみよう。
など、小中学校の環境教育に応用できそうです。
- 作者: 三島次郎
- 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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