単一種の分子系統樹の結果からその種の保全すべき場所の優先度を議論したり、人為的攪乱の影響を議論する論文があります。中には、現場を知っていたら「そんな馬鹿な」とあきれるような系統樹の結果をアプリオリに正しいとしてしまって、絶対にあり得ないことを結論としてしまう論文もあります。まずいことに、そういった論文は現場環境をきちんと書いていないので、読者がその怪しさに気づくことはむずかしいようです。
ですが、現実にはあり得ない結論を導き出すような系統樹を平気で載せているということは、その系統樹を導き出した時点でその著者が(故意でないにせよ)、おかしな操作をしていた可能性が高いはずです。分子系統樹のウソを身抜くための基礎知識は、これから環境学をやっていく上で必須になる局面が増えていくと思われます。
京都大学では全国の大学生が参加できる公開実習として、2016年3月に「海産無脊椎動物分子系統学実習」を開講します。
http://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/opencourse
エタノール固定した動物からDNAを抽出し、PCR法によってミトコンドリアDNAのCOI領域を増幅。増幅したかどうかをアガロースゲル電気泳動で調べるところまでやってから、塩基配列は外注します。結果が帰ってくるまでは、自分が分析に選んだ動物がどこでどんな風に生きているのか、白浜の磯や河口に行って、観察・採集し、同定や標本作製を習います。配列結果が帰ってきたら、波形を見て塩基を修正し、インターネットから近縁種の塩基配列データをダウンロードして、自分が解析した標本も含めた系統樹を作成する方法を習い、結果から何が言えるかグループで議論してプレゼンを作成します。
実習室から徒歩1分に宿舎があり、とても安価に泊まれます。食事もスタッフの方々が近所の食堂にお願いして、ぎりぎりの価格で提供してもらっています。運がよければスタッフの先生が釣ってきたアオリイカのお刺身を打ち上げで食べられるかも、です。外注した塩基配列の結果が戻るまでは比較的時間に余裕があり、学生さん達は近くの温泉に行ったり、釣りを楽しんでいたようです。
将来、水圏の生態系保全分野に進みたい学生さんには是非受講されるとよいと思います。