宍道湖水草「レジームシフト」説の怪

日本で海草を含む沈水植物が減少したのは富栄養化が原因ではなく除草剤使用が原因と最初に論文にしたのは、2006年でした。

Yamamuro, M., Hiratsuka, J., Ishitobi, Y., Hosokawa, S. and Nakamura, Y. (2006) Ecosystem shift resulting from loss of eelgrass and other submerged aquatic vegetation in two estuarine lagoons, Lake Nakaumi and Lake Shinji, Japan. Journal of Oceanography, 62 (4), 551-558
http://www.terrapub.co.jp/journals/JO/pdf/6204/62040551.pdf (←左記からPDFが無料でダウンロードできます)

ちょうどその頃、食品中残留農薬などの規制がそれまでのネガティブリスト制度(○○と○○は○○以上でてはダメ)からポジティブリスト制度(原則全ての化学物質が○○以上でてはダメ)に変わったので、特に水産対象種がいる湖沼では除草剤使用が減って水草が復活するに違いないと思っていたら、その通りになりました。これは誰が見ても除草剤の減少が原因なので(透明度は増えていないし、栄養塩も減っていない)、「『濁った系』から水草の優占する『澄んだ系』へのレジームシフト」などと馬鹿げたことを主張する人はさすがにいなくなるだろうと思っていたらそうでもなかったので、宍道湖で起こったことを論文にまとめました。

山室真澄・神谷 宏・石飛 裕(2014)宍道湖における沈水植物大量発生前後の水質,陸水学雑誌,75, 99-105
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/75/2/75_99/_pdf (←左記からPDFが無料でダウンロードできます)

湖沼より閉鎖度が低いサンゴ礁でさえ農薬の影響がとりざたされているのに(例えば下記)、なぜ日本の生態学では化学物質が湖沼生態系に与える影響を軽視するのか、理解に苦しみます。多様性保全にしても、やるべきことは湖岸に植物を植えることではなく、除草剤や殺虫剤使用以前の多様性はどうだったかを明らかにすることではないでしょうか。
Herbicides increase the vulnerability of corals to rising sea surface temperature. Limnol. Oceanogr., 56(2), 2011, 471–485
http://aslo.net/lo/toc/vol_56/issue_2/0471.pdf (←左記からPDFが無料でダウンロードできます)