環境省が湖沼で沈水植物の保全・再生のために、沿岸透明度の目標設定を進めるらしいとの情報が入りました。背景には、沈水植物が増えるとアオコが発生しなくなるとの、日本の生態学者の多くが未だに信じているファンタジーがあると思われます。
日本で1950年代後半から沈水植物が衰退した湖沼は、平野部の湖沼です。関東でも、例えば湯の湖など山地の湖沼は、外来種の侵入はあるものの、今に至るまでシャジクモ類など沈水植物が健全です。
ではなぜ平野部の沈水植物が衰退したかと言えば、アオコを含む植物プランクトンとの競合が原因ではなく、除草剤使用です。また、除草剤使用以前の平野部湖沼では沈水植物を肥料にするために、強度に採草していました(拙著「里湖モク採り物語」で解説しました)。
現在、指定湖沼で沈水植物が復活しているのは、二枚貝シジミから除草剤が検出されて除草剤使用量を大幅に減らした宍道湖と、かねてより農薬使用を減らしてきた琵琶湖南湖です。この二つの湖沼で沈水植物が繁茂することでアオコが発生しなくなったとか、魚貝類が増えたかと言えば、むしろ逆です。宍道湖では沈水植物が復活するとともに、アオコが頻発するようになりました。
特に魚貝類にとっては、採草されないまま高密度に繁茂する沈水植物のおかげで湖底が酸欠になったり、生息場所そのものが減って大変住みにくい状況になっています。
また、沈水植物には外来種(オオカナダモなど)だけでなく、在来種の雑種も存在します。現在、宍道湖で大量に繁茂しているのはオオササエビモという雑種と、ツツイトモの雑種です。どちらもかつての宍道湖にはいなかった、いわば国内外来種です。
まとめると、
・透明度を減らすことができたとしても、除草剤使用を減らさなければ沈水植物が復活する可能性は小さい。施策に費やす経費はドブに捨てるようなもの。
・万が一、沈水植物が復活してしまったら、動物を含めた生態系にとって危機的な状況になるだけでなく、自治体に沈水植物管理(=除草)の重い経済負担がのしかかる。
となります。
海域では、アマモやアラメ、カジメなど、水産有用種も含め動物の生息に重要な海草を特定して透明度の設定を検討しているようですが、湖沼については動物も含めての生態系であるという、生態学の基本が抜け落ちたか、沈水植物が復活した湖沼でどんな大変なことになっているか現実を見ないで検討をしてしまったのでしょう。
湖沼で透明度の目標を出すよう言われたら、自治体担当者はどうすればいいでしょうか。環境省が出すであろうガイドラインには従わず、「うちの湖沼はアオコが発生するとCODが目標を達成できなくなるので、まずはアオコがない状態の透明度を目指すこそにしたい。」と回答し、ともかくアオコを出さない為にはどういう対策をすればいいかを検討するのがよいと思います。