2006年以降、農薬、飼料添加物及び動物用医薬品の残留基準を見直し、基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度(ポジティブリスト制度)になりました。それまでは原則規制無し、特定のものだけ規制という制度でした(ネガティブリスト制度)。
これにより漁獲が行われている湖沼の集水域では水田除草剤の使用量が多少減り、水草の繁茂状況に変化があったと考えられます。
私たちは、1950年代半ばに全国の平野部の湖沼で一斉に沈水植物が衰退した原因は除草剤使用と考えています(共著「里湖モク採り物語」で詳述)。もし衰退の原因が除草剤使用だったのなら、逆に除草剤使用量が減ることによって、一部の沈水植物が繁茂する可能性があります。
その典型が宍道湖です。宍道湖のような汽水湖沼では淡水性の沈水植物は塩分によるストレスがあるので、除草剤の影響がよりシビアに効いていた可能性があります。それがポジティブリスト制度以降、富栄養化状態も濁度もそれ以前と全く変わらないのに、沈水植物が繁茂するようになりました。
水草研究会ではこの内容を水草の専門家にご紹介し、お考えをうかがいました。下記は発表した内容に一部加筆したものです。
水草学会公開「PDF版.pdf
「1950年代に消滅した原因は除草剤というのは、たぶんそうだと思う」「これまでレアだった水草が最近になって見られるようになった。ポジティブリスト制度のせいかもしれない。」と、肯定的なご感想ばかりでした。
琵琶湖の南湖ではポジティブリスト制度になる以前から水草が急激に復活していたように、塩分ストレスのない淡水域では、ポジティブリスト制度以前から除草剤の影響が弱くなっていたと思っています。ですので、ポジティブリスト制度に伴う現象としては、宍道湖のように「一斉に生えてきた」ではなく、除草剤により弱い種類でも少しづつ回復してきた、という感じになるかと思います。
そう言われればポジティブリスト制度の影響かもしれない、という情報がありましたら是非お寄せ下さい。除草剤が野生水草を広範囲に消滅させてしまうとの指摘は学術レベルではまだまだマイナーなので、日本での例をまとめて世界に発信できればと思います。これから除草剤使用が増えるであろう開発途上国の水草を守るために。