福島原発事故の責任問題から学ぶこと

原発事故から5年になろうとする2月29日、東電の勝俣元会長ら3人が、強制起訴されました(日経新聞2月29日記事)。
重大事故の危険があると予測できたのに防潮堤強化などの安全対策を怠り、11年の原発事故で避難した近隣病院の患者らを死傷させた責任が問われています。
彼らは過去に2回、不起訴になっています。津波は想定外だったとの主張が通ったからです。しかしこのブログで「貞観」で検索すると出てくる記事にあるように、地球科学からは確たる証拠によって、10mを超える津波が来ることが予測されていました。それは東電にも報告されていたのに、東電はあえて社団法人土木学会が発表した5.7mという数字を採用しました(関連記事へのリンク)。
一般の方は、土木学は地盤を扱うのだから当然地学の知識にも長けていると考えるかもしれません。しかし地学出身で、土木学関係者とも多少つながりがある私から見ると、大半の土木関係者は地学の知見をそれほど共有していないと思います。また交流もあまりなく、例えば関東地方の地層の名称も土木と地学では全く異なっていて面食らいます。活断層に関する知見についても、土木と地学ではかなり違うのではないかと思われます。
3.11では宮城県にある女川原発も13mの津波に襲われましたが、地学の予測を受け入れて約15mの防波堤を造ったことで災害を免れたそうです。日経サイエンス2015年6月号にある「地球科学の開拓者たち」という本の書評(下記)に書かれていました。
日本はモンスーンアジア変動帯と地学で呼ばれている、災害が非常に起こりやすい位置にある国です。この国で安心安全を確保していくには、義務教育で国民全員がある程度までの地学の知識を身につけることが必須です。なかなかそうはならないのが歯がゆいばかりですが、3.11を教訓に、せめて土木学と地学の知見の共有化が図られてもよいのではと思います。

(書評より)
地震地質学者が869年の貞観地震津波の痕跡を精査し、 M8.4以上の推定をしていたことを取り上げ、この警告を受け入れた女川原発が被害をまぬがれた一方で、 2009年6月に産業技術総合研究所貞観津波に対する東京電力の不備を指摘・警告していたにもかかわらず、何一つ対策を講じなかった結果、福島第l原発が被災し、未曾有の放射能被害を与えたことに対して猛省を促している。